米国のイラン核施設攻撃 – 中東危機12日間の全記録と日本への影響



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【詳報】米国のイラン核施設攻撃 – 中東危機12日間の全記録と日本への影響

2025年6月24日 更新

2025年6月22日午前2時30分(イラン時間)、トランプ米大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で衝撃的な発表を行った。米軍がイラン中部の核施設3カ所を攻撃したというのだ。イスラエルが6月13日に開始した「ライジング・ライオン作戦」から始まった中東での軍事衝突は、ついに米国の直接介入という新たな段階に突入した。

「本当にヤバいぞ」「第三次世界大戦になりませんように…戦争無くなってくれ…息子たちが生きる世界が平和であってくれ…」「これでホルムズ海峡封鎖かも..原油ルートの8割を依存する日本は大打撃…そして物価高騰です」

X(旧Twitter)では、トランプ大統領の電撃発表を受けて「イランの核施設」「第三次世界大戦」「バンカーバスター」などが次々にトレンド入り。日本への影響を懸念する声が相次いだ。

紛争の背景 – 1979年から続く対立の歴史

イランとイスラエルの対立は、1979年のイラン革命に端を発する。革命以前、両国は緊密な関係を築いていたが、親欧米のパフラヴィー朝が倒れ、イスラム共和制に移行すると状況は一変した。イランの初代最高指導者ルーホッラー・ホメイニーは、イスラエルによるパレスチナ占領を非難し、国交を断絶。以来、イランの神権的な政権は反ユダヤ主義的で大量虐殺的な言辞を繰り返し、「イスラエルを滅ぼす」ことを誓約してきた。

イスラエルがイランを攻撃する数週間前、ネタニヤフ政権はガザ地区での飢餓や民間人殺害を巡り、国際社会から強い圧力に直面していた。EUはイスラエルとの自由貿易協定の見直しを発表するなど、親密な同盟国からも批判が上がっていた。政治学者やジャーナリストの中には、イランへの攻撃がガザでのイスラエルの行動から注意をそらす狙いがあったと指摘する声もある。また、この対立はイスラエル国内の左右両派を結びつける要因でもあった。

イスラエルは、イランが数日以内に最大15発の核兵器を製造可能なほど濃縮ウランを蓄積しているという諜報情報に基づき、攻撃を決定したとイスラエル国防軍(IDF)は説明している。ネタニヤフ首相は、イランの核開発計画を「イスラエルの存亡を脅かす明白かつ差し迫った脅威」と位置づけ、「阻止しなければイランは短期間で核兵器を製造できるため」攻撃が必要だと述べた。

イスラエルによる先制攻撃「ライジング・ライオン作戦」(2025年6月13日)

2025年6月13日、イスラエルはイランの核開発に対応するため、同国の核施設などに対し先制攻撃を開始したことを発表した。ネタニヤフ首相はこの攻撃作戦を「ライジング・ライオン作戦」と命名したと発表。この作戦名は、1979年のイラン革命以前のイランの象徴である「ライオンと太陽」の復活、または聖書の民数記に由来するとされている。作戦には空爆、破壊工作、工作員の活動などが含まれるとされる。

攻撃開始に先立ち、イスラエル全土に非常事態宣言が発令された。

6月13日明朝の攻撃状況

  • イスラエルは、200機以上のF-35I戦闘機を含む空爆をイランに対して開始。F-35Iは、イラン上空での作戦のため航続距離を延長する改良が施されたと伝えられている
  • イスラエル軍は、ナタンツ濃縮施設やイランの核計画関連インフラを含む、イラン全土の100以上の拠点を標的とした
  • ブシェール原子力発電所やテヘラン研究炉などの稼働中の原子炉は攻撃されなかったため、原子力事故は発生しなかった
  • イスラエルの諜報機関モサドは、秘密裏に設置したドローン基地からイランの防空システムとミサイル関連施設を破壊し、イスラエル航空機の制空権を確保
  • テヘラン各地で爆発が報告され、革命防衛隊(IRGC)本部などが炎上したとされる
  • 主要な核施設であるエスファハーン州のナタンツ核施設や、ホンダーブ、ホッラマーバードの核施設も攻撃対象となった

6月13日午後以降の戦闘継続

イスラエルはタブリーズ、シーラーズ、ナタンツの核施設への空爆を継続し、ハマダーン空軍基地、パルチン軍事基地も攻撃した。地下のフォルドゥ燃料濃縮工場付近でも爆発が報告された。イスラエル軍はハマダーンとタブリーズ空軍基地への攻撃を確認し、タブリーズ基地を「無力化」し、多数のイラン製ドローンや地対地ミサイル発射装置を破壊したと主張した。

戦闘の激化と被害状況(2025年6月14日〜)

イスラエル側の攻撃継続

イスラエル国防軍は、イラン国内の120基の地対地ミサイル発射装置(イランの約30%に相当)を破壊し、テヘラン上空の「完全な制空権」を確保したと発表した。

病院やイラン国営放送本部も攻撃を受けた。ケルマンシャーのファラビ病院が損傷し、イラン国営放送(IRIB)本部は生放送中に空爆され、職員1名が死亡したと報じられている。イスラエルはIRIBが「イラン軍によって軍事作戦に利用されていた」と主張したが、イラン政府は否定した。

テヘランの一部地域には住民避難命令が出された。

イラン軍幹部・核科学者の殺害

イラン軍幹部の殺害が相次ぎ、イラン軍参謀本部の情報部副部長ゴラームレザー・メフラビ将軍と作戦部副部長メフディ・ラッバーニー将軍が死亡。イスラエルはさらに、イランの情報機関トップや複数の幹部(モハンマド・カゼミ、ハッサン・モハケク、モハンマド・ハタミ)を殺害したと発表した。6月17日には、イラン軍における最高位の司令官であるアリー・シャドマニ少将が暗殺された。

イランの核科学者も犠牲となり、フェレイドゥーン・アッバシー、モハンマド・メフディー・テヘラーンチーの他、合計9人または14人の核科学者が殺害されたと伝えられている。

石油施設への攻撃

イランの石油省は、ブーシェフル州の2つの油田(南パース・ガス田第14フェーズプラットフォームとファジュル・ジャム製油所)が攻撃され、ガス生産が停止したと発表した。赤十字社は、イスラエルの攻撃がイランの31州のうち18州に影響を与えたと発表している。

イラン側の報復攻撃「真の約束作戦3」

イスラエルの攻撃後、イランは「厳しい報復」を行うと表明し、中東全域のイスラエルおよびアメリカ軍基地を攻撃すると述べた。

  • 6月13日夜、イランは「真の約束作戦3」と呼ぶ報復攻撃を開始し、イスラエルに向けて100機以上のシャヘド・ドローンを発射
  • テルアビブがイランのミサイルによって標的とされ、一部は迎撃されたものの、市内(ベギン通り近くのハキリヤ軍事司令部など)への着弾も確認された
  • イエメンの反政府勢力フーシも攻撃に参加し、同国からエルサレムを狙って弾道ミサイルを発射、ヨルダン川西岸地区のヘブロンに着弾し、パレスチナ人5人が負傷
  • イスラエル国防軍は、約150発の弾道ミサイルが発射されたと推定している

人的・物的被害(イスラエル側)

6月14日、イランによる弾道ミサイル攻撃により、イスラエル側で63人が負傷、1人の民間人女性が死亡した。テルアビブでは建物が倒壊し、救助隊が2人を救出した。

  • ラマト・ガンとリション・レツィヨンでは3人が死亡、172人が負傷
  • 北部イスラエルで5人(後に4人と訂正)が死亡
  • タムラではミサイルが住宅に命中し、女性1人が死亡、14人が負傷
  • 別の攻撃で女性と2人の娘を含む4人が死亡
  • ハイファのBAZAN製油所付近でも火災が発生

6月15日には、バト・ヤム中心部へのミサイル攻撃で民間人9人が死亡、約200人が負傷、1人が行方不明と報じられた。

6月16日までに、イスラエル側の死者は24人、負傷者は592人に達したとCNNが報じた。

テルアビブ中心部の住宅ビルや周辺の建物に甚大な損傷、多数の車両が焼失、イスラエル国防軍本部施設も被害を受けた。

アメリカの攻撃参加「真夜中の鉄槌作戦」(2025年6月21日/22日)

2025年6月21日(日本時間22日)、アメリカのトランプ大統領は、アメリカ軍がイランの核施設3ヶ所を攻撃したと発表した。作戦名は「真夜中の鉄槌作戦」と公表された。

標的と兵器

攻撃されたのは、フォルドゥ、ナタンツ、イスファハンの3つの核施設だ。

  • フォルドゥ:地下およそ80メートルに位置するとされる施設で、アメリカ軍のB-2ステルス爆撃機のみが搭載できる約14トンのバンカーバスター(GBU-57)6発が投下された。バンカーバスターは地中貫通爆弾の通称で、重力によって地下深くにめり込むように設計されている
  • ナタンツとイスファハン:潜水艦から発射された巡航ミサイル「トマホーク」30発が使用された

作戦の遂行

  • B-2ステルス爆撃機7機がミズーリ州ホワイトマン空軍基地から飛び立ち、空中給油を繰り返しながらイランまで約1万キロメートル以上飛行した
  • 陽動作戦として、別のおとりのB-2爆撃機が太平洋方面、グアム基地に向けて飛行させられた
  • トランプ大統領は、攻撃は「非常に成功した」とし、イランの主要なウラン濃縮施設は「完全に破壊された」と強調した
  • 国防長官のピート・ヘグセスは、今回の作戦はイランの核開発計画を止めるための限定攻撃であり、「体制転換」を目指すものではないと明言した
  • しかし、トランプ大統領はSNSで「イランを再び偉大にできないのなら、なぜ体制転換が起きないのか」と投稿し、事実上の政権転覆圧力を示唆した

イラン側の反応(アメリカ攻撃後)

イランのアラグチ外相は、今回の攻撃を「無法であり、永続的な影響をもたらすだろう」とし、米国とイスラエルは「非常に大きなレッドライン」を越えたと述べた。イランは、自国の主権、国益、国民を守るため、「あらゆる選択肢を保持している」と強調した。

イランの原子力長は、攻撃を受けた核施設では濃縮ウランを事前に別の場所に移動させていたと報じた。IAEAは施設外での放射線量に増加はないと発表している。

イラン議会はホルムズ海峡の封鎖を承認したと報じられた。ただし、最終決定は最高国家安全保障会議に委ねられる。専門家は、ホルムズ海峡の完全封鎖はイラン自身の経済にとってもマイナスであるため、可能性は低いと見ている。

イランは、米国がイランの核施設を攻撃したことに基づき、核不拡散条約(NPT)から脱退する法的権利を有すると主張した。イスラエルはNPTに加盟しておらず、核兵器を保有しているかどうかも曖昧にしている。

イランによる報復(アメリカへの攻撃)

6月23日、イランの革命防衛隊は、アメリカ軍が駐留するカタールのアルウデイド空軍基地を標的にミサイル攻撃を行ったと発表した。イラクにあるアメリカ軍基地も攻撃対象となった。この攻撃は、アメリカの核施設攻撃への報復とされ、作戦名は「勝利の祝福」とされた。

複数の情報筋によると、イランは攻撃の数時間前にアメリカとカタールに事前通知をしており、これにより死傷者は出なかった。これは、報復を行いながらも被害を最小限に抑え、事態のエスカレートを避ける狙いがあったと見られている。

カタール国防省は防空システムでミサイルを迎撃し、負傷者はいないと発表した。アメリカ軍は攻撃に備えて兵士や軍用機を退避させていた。

各国の反応とその他の動き

アメリカ

  • トランプ大統領はイランに対し「無条件降伏」を要求し、従わなければ「これまでに見たものよりもはるかに大きな悲劇が待ち受けている」と警告した
  • トランプ氏は、イラン最高指導者ハメネイ師の居場所を「正確に把握している」が「今のところ」殺害するつもりはないと述べた
  • 副大統領のJ・D・ヴァンスは、米国が対イラン戦争に参加する可能性があると示唆した。ただし、米国は紛争を長期化させたり、地上部隊を投入したりする意向はないと強調した
  • トランプ政権はイランとの交渉再開の意向を表明した

イスラエル

  • ネタニヤフ首相は、トランプ大統領の「大胆な決断」を称賛し、攻撃が「歴史を変える」と述べた
  • イスラエルのアイザック・ヘルツォグ大統領は、「イランを攻撃する以外の選択肢はなかった」と述べた
  • イスラエル軍はペルシア語で声明を発表し、イラン国民に対しモサドのウェブサイトを通じて連絡を取るよう促すなど、「異例」の行動をとった

日本

6月13日、日本の石破茂首相はイスラエルによる攻撃を「到底許容できるものではない」「強く非難」すると表明した。外務大臣も同様の談話を出したが、イランの報復についても「事態をエスカレートさせるいかなる行動も強く非難」し、「最大限の自制」を求めた。

しかし、G7によるイスラエルの自衛権を支持し、イランを非難する共同声明が発表された後、日本政府の発信に変化が見られた。林芳正内閣官房長官は、イスラエルの先制攻撃について「自国を守る権利として正当化されるかについては事実関係の十分な把握が困難」として評価を控え、「事態の沈静化に向けた外交努力が重要だ」と述べた。

中国

中国外務省は、米国のイラン攻撃は「国連憲章と国際法に対する重大な違反」であり、「中東の緊張を高める」と強く非難した。紛争当事国、特にイスラエルに対し、直ちに攻撃をやめ、対話を始めるよう求めた。

ロシア

ロシア外務省は、米国のイラン攻撃を「無責任」であり「国際法の重大違反」だと批判し、「危険なエスカレーション」の始まりであると警告した。

国連

アントニオ・グテーレス事務総長は、米国の攻撃を「すでに危機にひんしている地域における危険なエスカレーション」だと指摘し、「軍事的解決策はあり得ない。唯一の道は外交であり、唯一の希望は平和だ」と強調した。

国際原子力機関(IAEA)も、核施設への攻撃は放射能漏れなどの深刻なリスクを伴うため、いかなる状況下でも許されないと繰り返し警告していた。

その他

  • イランでは、イスラエルによる攻撃後、広範なインターネット遮断が実施され、海外在住のイラン人が家族と連絡を取ることが困難になった
  • 家族に電話をかけた際にロボットのような音声メッセージが応答するという事態が発生し、「心理戦」ではないかとの憶測も流れた
  • イラン当局は、モサドの工作員とされる人物を逮捕し、スパイ容疑者を処刑するなど、スパイ取り締まりを強化した

停戦合意の発表(2025年6月24日)

2025年6月23日(日本時間24日)、トランプ米大統領は自身のSNSで、交戦中のイスラエルとイランが停戦することで合意したと発表した。トランプ氏は、進行中の軍事作戦を縮小後、双方が攻撃を停止し、段階的な停戦を目指すとし、「12日戦争の正式な終結が世界から歓迎されるだろう」と強調した。また、イランが報復攻撃を事前通知したことで死傷者が出なかったことに感謝の意を示し、イランが「地域における平和と調和へと進むことができるだろう」との見方を示した。

ただし、この停戦合意はイスラエルとイランの両国からはまだ公式に発表されておらず、停戦が実際に実現するかは不透明な部分も多いとされている。

石破首相の対応と「二重基準」批判

今回の軍事衝突における日本政府の対応、特に石破首相の姿勢は大きな注目を集めた。イスラエルと米国に対する対応の違いが「二重基準」として批判されている。

イスラエル攻撃への対応(6月13日)

石破首相は、イスラエルによるイラン攻撃について「イランの核問題の平和的解決に向けた外交努力が継続している中で、イスラエルによる軍事的な手段が用いられたことは到底許容できるものではない」と強く非難した。外務大臣談話でも「強く非難する」と明確な批判を行った。

米国攻撃への対応(6月22日)

一方、米国によるイラン核施設攻撃に対しては、態度が大きく変化した。石破首相は首相公邸で記者団に対し、以下のように述べた:

「我が国としては、事態を早期に沈静化することが、まずは何よりも重要であると考えている。同時にイランの核兵器開発は阻止されなければならない」

米軍の攻撃を支持するかどうか問われると:

「これから政府内できちんと議論する。しかるべき時にお答えする」

さらに、事実関係の評価については:

「我が国は直接の当事者ではございません。詳細な事実関係を正確に把握できるという立場に今おりません。確定的な法的評価というものを現時点において我が国としてすることは困難だ」

「曖昧な態度」の背景

政治専門家は、石破首相の曖昧な表現の背景として以下の要因を指摘している:

  • 責任回避:「記憶にない」「精査中」といった表現で直接的な責任を避ける
  • 政府方針の維持:米国との同盟関係を考慮した対応
  • 選挙対策:特定の支持層からの反発を避ける
  • 党内・官僚との調整:発言による齟齬の防止
  • 記録に残るのを避ける:将来的な問題化を防ぐ
  • 問題の先送り:時間を稼いで状況を見極める

政府・官僚の間では、石破首相が「あいまいな答弁」をすることで、不用意な発言を避け、野党に言質を取られず、仕事がやりやすいと評価されている面もある。

日米関係と「核の傘」

この対応の差は、日本が米国の「核の傘」に守られているという事情があると分析されている。石破首相は会見で以下のように述べた:

「日本が中東からの石油に約8割を依存していることに触れ、中東地域の平和と安定が日本の生活にとって不可欠である」

「利益を享受するだけであってはならない」

「日本周辺においても核開発や運搬能力の向上が進んでいることに言及し、ヨーロッパ、中東、アジアが繋がっているという国際情勢の認識を示した」

首相官邸の側近は、トランプ大統領が直接的な関税要求を出さなかったことや、日本に対する爆弾宣言や不規則発言がなかったことから、「予想以上の成果」と自賛している。

ネット上の反応

SNS上では、石破首相の対応について批判的な声が多く上がっている:

  • 「アメリカに忖度している」
  • 「曖昧な受け答えしかしない」
  • 「イスラエルは強く非難したのに、米国は批判しないのはおかしい」
  • 「恥ずべき属国的態度」(日本共産党・志位委員長)

イランは日本にとって長年の友好国でありながら、石破首相は米国の攻撃を支持するかどうか「政府内できちんと議論する」と述べ、外交的な逃げ腰と指摘されている。

経済への影響と今後の懸念

原油価格とホルムズ海峡

ホルムズ海峡は世界の石油・天然ガス供給の約5分の1が通過するエネルギーの大動脈だ。日本が輸入する原油の9割以上が中東産であり、そのほとんどがこの海峡を通る。

もしホルムズ海峡が封鎖されれば:

  • ガソリン価格の高騰(年間1~2万円の負担増)
  • 電気料金の値上がり
  • プラスチック製品の価格高騰
  • 物流コスト増大による物価全般への波及

ただし、専門家は以下の理由から完全封鎖の可能性は低いと見ている:

  • イラン自身の原油収入にも影響が及ぶ
  • 米海軍が「逆封鎖」を行い、イラン経済だけが崩壊する可能性
  • 外交カードとして使われている側面が強い

市場の反応

米国によるイラン攻撃後、原油価格は一時的に急騰したが、イランの報復攻撃が抑制的であったことから、その後大幅に下落した。専門家は、原油価格の高騰は世界的なインフレ圧力と経済成長への課題を増大させる可能性があると指摘している。

市場全般では:

  • 国債は当初、伝統的なセーフ・ヘイブンとしての反応を示さなかった
  • しかし、金利は翌週に低下に向かい、原油と金は上昇
  • 米ドルが選好される展開となった

今後の見通しと分析

エスカレーションの可能性

イランはアメリカへの報復を行う可能性が十分にあると見られている。しかし、イランは戦争の長期化を避けたいと考えており、アメリカへの報復は被害を限定的なものにする象徴的なやり方を選ぶ可能性がある。

過去の事例として、2020年1月にアメリカがイランの司令官を殺害した際、イランはイラクの米軍基地を攻撃したが、事前に攻撃を予告し、米兵が退避した後にミサイルを撃ち込むことで被害を抑制した。今回も同様の抑制的な報復が選ばれた。

体制転換の可能性

トランプ大統領はイランの体制転換を示唆する発言をしているが、国防長官は体制転換を目指すものではないと強調している。専門家は、アメリカがイラクでの経験から、イランの「国家再建」には興味がないだろうと見ている。

最高指導者ハメネイ師の暗殺は、交渉の余地をなくし、大混乱を引き起こす可能性があるため、アメリカ側もイスラエル側も避けたがっている可能性が高いと分析されている。

国際法の順守

中国やロシア、パキスタン、国連事務総長、日本の自由法曹団などは、今回の米国の攻撃を国際法違反、国連憲章違反であると強く非難している。特にイラク戦争での大量破壊兵器の虚偽情報と比較し、今回の攻撃は国連安保理への説明すらなかったと批判されている。

イラン国内の状況

イランの指導部は、軍の上層部とイスラム聖職者の上層部の連合体であり、軍幹部の暗殺が進められているものの、聖職者にはまだ手が出ていない。ハメネイ師は現在、連絡が密にとれない状況にある可能性があり、イランの意思決定が迅速に行われない状況にある可能性も指摘されている。

日本の立場

日本政府は当初、イスラエルの先制攻撃を強く非難したが、G7共同声明でイスラエルの自衛権が支持された後、そのトーンが変化した。専門家は、これはイランの核保有に対する国際社会(特に欧州やアラブ諸国)の強い懸念を日本が改めて認識したためだと分析している。

主な用語解説

  • ライジング・ライオン作戦 (Operation Rising Lion): 2025年6月13日にイスラエルがイランの核施設などに対して開始した先制攻撃の作戦名
  • 真の約束作戦3 (Operation True Promise III): イスラエルによる攻撃に対するイランの報復作戦名。ミサイルやドローンによる攻撃が含まれる
  • 真夜中の鉄槌作戦 (Operation Midnight Iron Sledge): 2025年6月22日にアメリカ軍がイランの核施設3ヶ所を攻撃した作戦名
  • バンカーバスター (Bunker Buster): 地下の強固な施設を破壊するために設計された、非常に重い地中貫通爆弾の総称。今回アメリカ軍がフォルドゥ核施設への攻撃で使用したGBU-57はその中でも最大級のもの
  • F-35I戦闘機 (F-35I fighter jet): イスラエルがイランへの空爆に使用したステルス戦闘機。長距離飛行のために改良されている
  • シャヘド・ドローン (Shahed drone): イランが報復攻撃で使用した無人航空機(ドローン)
  • ホルムズ海峡 (Strait of Hormuz): イランとオマーンの間にある狭い海峡で、世界の石油・天然ガス供給の約5分の1がここを通過するエネルギーの大動脈
  • NPT (核拡散防止条約): 核兵器の拡散を制限するための国際条約。イランはこれに加盟しているが、アメリカの攻撃を理由に脱退の権利を主張している。イスラエルはNPTに加盟していない
  • IAEA (国際原子力機関): 国連の枠組みの中で、核エネルギーの平和的利用を促進し、核兵器への転用を防ぐための査察などを行う機関
  • 体制転換 (Regime Change): ある国の政府や政治体制を別のものに変えること。米国防長官は今回の攻撃の目的ではないとしたが、トランプ大統領のSNSでは示唆された
  • 先制攻撃 (Pre-emptive Strike): 差し迫った脅威がある場合に、相手の攻撃を未然に防ぐために自ら攻撃を開始すること
  • 集団的自衛権 (Collective Self-Defense): 自国への武力攻撃が発生していない場合でも、密接な関係にある他国への武力攻撃を自国への攻撃と見なし、武力をもって阻止する権利

まとめ

この紛争は予測不可能であり、今後数日、数週間、数ヶ月でどのように展開するかは中東の専門家でさえ予測が難しい状況だ。イランが挑発に乗り、戦争を拡大するのか、それとも冷静に判断し、米国との合意を目指し停戦に持ち込むかによって、中東の地政学的状況は大きく変化する可能性がある。

日本にとっても、エネルギー安全保障の観点から他人事ではない。石破首相の対応を巡る議論は、日本が国際社会でどのような立ち位置を取るべきか、という根本的な問いを投げかけている。



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