目次
米中通商協議とレアアース輸出規制:ロンドン会談が示す貿易戦争の新局面
2025年6月9-10日にロンドンで開催された米中通商協議は、レアアース輸出規制と半導体技術規制を巡る両国の戦略的対立を浮き彫りにしました。本記事では、会談の詳細と今後の貿易関係への影響を徹底分析します。
📊 記事のポイント
- 米国は中国のレアアース輸出規制緩和と引き換えに、一部ハイテク製品の輸出規制解除を示唆
- 中国は世界のレアアース精製能力の90%を支配し、米国の輸入の77%を占める
- ベッセント財務長官は現行の高関税を「持続不可能」と評価
- 構造的な対立により、包括的合意の可能性は限定的
ロンドン会談の概要と参加者
2025年6月9日から10日にかけて、英国ロンドンのランカスター・ハウスで米中通商協議が開催されました。この会談は、5月12日のジュネーブ合意で達成された一時的な「休戦」を維持し、さらなる関係改善を模索する重要な機会となりました。
国 | 主席代表 | 主要参加者 |
---|---|---|
米国 | スコット・ベッセント財務長官 | ハワード・ラトニック商務長官 ジェイミソン・グリアUSTR代表 |
中国 | 何立峰(か・りつほう)副首相 | 王文涛(おう・ぶんとう)商務部長 李成鋼(り・せいこう)首席貿易交渉官 |
会談初日終了後、ベッセント財務長官は記者団に対し「良い会合だった」と評価し、ラトニック商務長官も「実り多い協議」と表現しました。しかし、具体的な進展の詳細については限定的な情報開示にとどまりました。
レアアース輸出規制の詳細と影響
中国は2025年4月4日、7種類の重要レアアース元素に対する輸出管理措置を発効させました。この措置は完全な禁輸ではありませんが、商務部(MOFCOM)による特別輸出許可制度を通じて、事実上の輸出制限を可能にしています。
対象となるレアアース元素
- サマリウム(Sm)- 永久磁石材料
- ガドリニウム(Gd)- MRI造影剤、原子炉制御
- テルビウム(Tb)- 蛍光体、レーザー
- ジスプロシウム(Dy)- 高性能磁石
- ルテチウム(Lu)- 触媒、LED
- スカンジウム(Sc)- 航空宇宙材料
- イットリウム(Y)- セラミックス、超伝導体
⚡ 市場への影響
中国のレアアース支配は圧倒的です。世界の採掘量の69%、精製能力の90%を占め、米国のレアアース輸入の77%が中国産です。2024年の中国のレアアース輸出量は55,431メートルトンで前年比6%増加しましたが、価格下落により輸出額は36%減の4.888億ドルとなりました。
特に懸念されるのは防衛産業への影響です。米国防総省は2020年以降、国内サプライチェーン構築に4.39億ドルを投資していますが、依然として中国への依存度は高い状況が続いています。
米国のハイテク製品輸出規制
米国も中国に対して厳格な半導体・技術輸出規制を実施しています。2022年10月に導入された規制は、その後段階的に強化されてきました。
米国の戦略的目標
米国の輸出規制は以下の4つの主要目標を掲げています:
- AIチップへの中国のアクセス制限
- 中国の半導体設計能力の削減
- 先端チップ製造の阻害
- チップ製造技術へのアクセス制限
主要関係者の発言と立場
「中国とは順調にやっている。簡単な相手ではないが、良い報告しか届いていない」
トランプ大統領は6月5日の習近平主席との90分間の電話会談について、「ほぼ貿易に関してのみ」議論したと明かしました。また、「レアアース製品の複雑性に関してもはや疑問はないはずだ」と述べ、中国側に明確な対応を求めました。
「145%と125%の関税は持続不可能で、事実上の禁輸に等しい」
ベッセント財務長官は、中国が「世界の他の地域にとって信頼できるパートナー」になる必要性を強調しました。同時に、会談が「やや行き詰まっている」とし、トランプ・習両首脳の直接関与が必要かもしれないと示唆しました。
交渉戦略と今後の展望
米国のアプローチ
米国は高関税を交渉カードとして活用し、中国に譲歩を迫る戦略を採用しています。同時に、日本、オランダ、韓国などの同盟国と連携し、半導体規制の多国間調整を進めています。また、国防生産法を通じて代替サプライチェーンへの投資を加速させています。
中国の戦略
中国はレアアースを「戦略的交渉カード」として巧みに使用しています。完全禁止ではなく許可要件による段階的対応を採用し、防衛、自動車、再生可能エネルギー部門への的を絞った制限を実施しています。
分野 | 米国の立場 | 中国の立場 |
---|---|---|
レアアース | 輸出規制の緩和を要求 | 許可制による管理を維持 |
半導体 | 技術優位性の維持 | 規制解除を要求 |
関税 | 段階的削減の可能性 | 相互削減を提案 |
💡 今後の見通し
ロンドン会談は、ジュネーブ休戦枠組みを維持する試みとして一定の成果を上げましたが、構造的な対立の解消には至っていません。両国間の戦略的競争は継続し、貿易緊張は短期的な合意に関わらず持続すると予想されます。
解決には、トランプ・習両首脳の直接関与が不可欠となる可能性が高く、包括的合意への道のりは依然として険しいものとなっています。投資家やビジネスパーソンは、この不確実性を前提とした戦略立案が必要となるでしょう。
コメントを残す