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【7600】日本エムディエム徹底分析|増収なのに赤字転落した整形外科医療機器メーカー、その理由と投資判断のポイント
「売上は伸びているのに、なぜ赤字になるの?」——株式投資を始めたばかりの方なら、こう疑問に思うかもしれません。今回取り上げる日本エムディエム(証券コード:7600)は、まさにこの「増収減益」の典型例です。
人工関節や骨接合材料を手がける同社は、2025年3月期に売上高251億円と過去最高を更新しながら、約4.6億円の最終赤字に転落しました。いったい何が起きているのか。この記事では、投資初心者の方にもわかりやすく、同社の現状と課題、そして投資判断のポイントを解説します。
📖 この記事の内容
日本エムディエムってどんな会社?
日本エムディエムは、1972年に設立された整形外科領域に特化した医療機器メーカーです。東証プライム市場に上場しており、主に以下の製品を開発・製造・販売しています。
- 証券コード
- 7600(東証プライム)
- 設立
- 1972年
- 本社
- 東京都新宿区
- 従業員数
- 約730名(連結)
- 主要製品
- 人工関節、骨接合材料、脊椎固定器具
- 筆頭株主
- 三井化学(30.01%)
製品の内訳を見ると、人工関節が売上の約66%を占める主力事業です。膝や股関節の変形性関節症などで傷んだ関節を、金属やセラミック製の人工関節に置き換える手術で使われます。
| 製品カテゴリ | 2025年3月期売上 | 構成比 |
|---|---|---|
| 人工関節 | 166.9億円 | 66.4% |
| 骨接合材料 | 46.5億円 | 18.5% |
| 脊椎固定器具 | 35.7億円 | 14.2% |
| その他 | 4.1億円 | 1.6% |
地域別では、日本が136億円(54%)、米国が115億円(46%)と、海外売上比率が約46%まで拡大しています。米国には100%子会社のOrtho Development Corporation(ODEV社)があり、製品の開発・製造拠点となっています。
業績推移:4期連続の増収減益という異常事態
同社の業績推移を見てみましょう。売上高は順調に伸びている一方で、利益は年々減少しているのがわかります。
| 決算期 | 売上高 | 営業利益 | 営業利益率 | 純利益 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年3月期 | 191億円 | 26.6億円 | 13.9% | 21.3億円 |
| 2023年3月期 | 213億円 | 20.2億円 | 9.5% | 14.2億円 |
| 2024年3月期 | 231億円 | 17.4億円 | 7.5% | 12.7億円 |
| 2025年3月期 | 251億円 | 15.5億円 | 6.2% | ▲4.6億円 |
| 2026年3月期(予想) | 248億円 | 7億円 | 2.8% | 3億円 |
わずか4年間で営業利益率は13.9%から6.2%へと半減以下に低下しました。2026年3月期の予想では2.8%まで落ち込む見通しです。売上が伸びているのに利益が出ない——この「稼ぐ力の低下」こそが、同社の株価が長期低迷している最大の理由です。
なぜ「増収減益」が起きるのか
同社が増収減益に陥っている原因は、大きく3つあります。
原因①:円安で仕入れコストが急上昇
日本エムディエムの製品の約80%は、米国子会社ODEV社から調達しています。この仕入れは米ドル建てで行われるため、円安が進むほど調達コストが上昇します。
| 年度 | 為替レート | 前年比 |
|---|---|---|
| 2023年3月期 | 134.95円/ドル | — |
| 2024年3月期 | 144.41円/ドル | +7.0% |
| 2025年3月期 | 152.50円/ドル | +5.6% |
2年間で円は約13%下落し、年間10〜15億円の調達コスト増が発生していると推定されます。
原因②:医療機器は価格転嫁ができない
通常の製造業であれば、コストが上がれば販売価格を上げることで対応できます。しかし、医療機器の価格(保険償還価格)は国が定めており、企業が自由に決められません。
しかも、この償還価格は2年ごとに見直され、基本的に引き下げ方向で改定されます。つまり、日本エムディエムは「仕入れコストは円安で上がるが、売価は国の制度で下がる」という二重の収益圧迫を受けているのです。
医療機器メーカーは、製薬会社と同様に「薬価・機器価格改定」の影響を受けます。これは日本特有の制度で、国が医療費抑制のために行っています。医療関連銘柄に投資する際は、この点を必ず確認しましょう。
原因③:売上原価率の悪化
数字で確認すると、売上原価率は2年間で3ポイント以上悪化しています。
| 項目 | 2023年3月期 | 2025年3月期 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 売上原価率 | 34.3% | 37.7% | +3.4pt |
| 販管費率 | 56.2% | 56.1% | ▲0.1pt |
販管費率はほぼ横ばいですが、売上原価率の悪化が利益を圧迫しています。為替の影響に加え、米国でのインフレによる製造コスト上昇も響いています。
米国子会社の訴訟問題と供給制約
2025年3月期の赤字転落には、もう一つ大きな要因がありました。米国子会社ODEV社をめぐる訴訟和解金15.5億円の特別損失計上です。
ODEV社とは
ODEV社は1994年に日本エムディエムが買収した米国ユタ州の医療機器メーカーです。人工膝関節「Balanced Knee System」や人工股関節「Entrada Hip System」などを開発・製造しており、グループの心臓部とも言える存在です。
15.5億円の訴訟和解金
2025年3月7日、会社はODEV社が関与する損害賠償請求訴訟を和解で解決したと発表しました。和解金は15.5億円(約1,020万米ドル)で、2025年3月期に全額を特別損失として計上しました。
訴訟の相手方や争点(製品責任なのか、特許侵害なのか、契約紛争なのか)は非開示となっており、同種のリスクが今後も発生するかどうかは不透明です。
人工膝関節の供給制約
さらに、ODEV社では人工膝関節製品の供給制約も発生しています。製造キャパシティの不足が原因で、日米両市場で獲得できる手術症例数に影響が出ています。
会社によると、この供給制約は2026年3月期下期も一部継続する見込みです。2026年3月期の業績予想は2回にわたり下方修正され、経常利益は期初予想の17億円から5.5億円へと67%も引き下げられました。
高齢化社会と医療機器市場の将来
ここまでネガティブな話が続きましたが、同社を取り巻く市場環境には明るい材料もあります。
日本は世界一の高齢化社会
日本の65歳以上人口は3,625万人、高齢化率は29.3%で世界1位です。2040年には34.8%、2050年には37.1%まで上昇すると予測されています。
膝や股関節の病気は増え続ける
高齢化に伴い、膝や股関節の「変形性関節症」の患者数も増加しています。
- 変形性膝関節症の患者数:自覚症状あり約1,000万人、潜在的には約3,000万人
- 人工膝関節置換術:年間約14万件
- 人工股関節置換術:年間約6〜7万件
人工関節の需要は2040年代まで増加が続くと予測されており、長期的には市場拡大の恩恵を受けられる立場にあります。
ただし競争は激しい
一方で、整形外科医療機器市場はグローバル大手による寡占状態にあります。DePuy Synthes(J&J傘下)、Stryker、Zimmer Biometなど上位5社で世界市場の約52%を占めています。
また、大手各社は「Mako」や「ROSA」といった手術支援ロボットを展開し、より精密なインプラント設置を実現しています。日本エムディエムはこうしたロボット手術システムを持っておらず、技術面での競争力には課題があります。
株価とバリュエーション
では、現在の株価はどう評価すべきでしょうか。2026年1月時点の主要指標を見てみましょう。
| 指標 | 数値 | 評価 |
|---|---|---|
| 株価 | 486円 | — |
| 時価総額 | 約128億円 | 小型株 |
| PER(予想) | 42.67倍 | やや割高 |
| PBR | 0.52倍 | 大幅割安 |
| 配当利回り | 3.5% | 高配当 |
| 自己資本比率 | 73.3% | 非常に健全 |
| ROE(予想) | 1.23% | 低水準 |
PBR0.52倍の意味
PBR(株価純資産倍率)が0.52倍ということは、会社が持つ純資産(帳簿上の価値)の約半分の価格で株式が買えることを意味します。言い換えれば、会社を清算して資産を売却すれば、株価の2倍近い価値があるということです。
これだけ見ると「お買い得」に見えますが、注意が必要です。市場がこれほど低い評価をしているのは、ROE(自己資本利益率)が1.23%と極めて低いからです。つまり「この会社は持っている資産を使って利益を生み出せていない」と判断されているのです。
PBRが低い銘柄は「割安株」として魅力的に見えますが、業績が回復しなければ株価も上がりません。割安に見えるまま長期間放置される「バリュートラップ(割安の罠)」のリスクがあります。
配当利回り3.5%の魅力と危うさ
2026年3月期の予想配当は1株17円で、配当利回りは約3.5%と東証プライム平均を上回ります。同社は10年連続で増配を続けており、株主還元への姿勢は評価できます。
ただし、予想純利益3億円に対して配当総額は約4.5億円となり、配当性向は149%という異常値です。これは「利益以上に配当を出している」状態であり、今後の減配リスクを示唆しています。
投資判断のポイント
最後に、同社への投資を検討する際のポイントを整理します。
メリット(投資の魅力)
- PBR0.5倍の大幅割安:純資産の約半分の価格で購入可能
- 配当利回り約3.5%:インカムゲイン(配当収入)が期待できる
- 自己資本比率73%超:財務基盤は非常に健全で、倒産リスクは低い
- 高齢化社会の恩恵:人工関節需要は構造的に拡大傾向
- 最低投資金額約4.8万円:少額から投資可能
デメリット(投資のリスク)
- 業績悪化・赤字転落:稼ぐ力が急速に低下中
- 為替リスク:円安が続く限り収益改善は困難
- 減配リスク:配当性向149%は持続不可能
- 流動性リスク:出来高が少なく、売りたい時に売れない可能性
- 競争環境:ロボット手術で大手に技術格差
投資スタンスの考え方
| 投資家タイプ | 推奨スタンス | 理由 |
|---|---|---|
| 保守的な方 | 見送り推奨 | 業績悪化中で不確実性が高い |
| 中立的な方 | 様子見 | 2026年5月の本決算で業績底打ちを確認してから |
| バリュー志向の方 | 少額で打診買い検討 | PBR0.5倍は歴史的割安圏、長期保有前提なら |
今後の注目イベント
- 2026年5月:2026年3月期本決算発表・2027年3月期業績予想公表
- ODEV社の製造能力改善状況:供給制約解消が収益回復の鍵
- 為替動向:円高に転換すれば収益改善の追い風に
まとめ
日本エムディエムは、高齢化社会という長期的な追い風を受けながらも、円安と医療機器特有の価格制度に苦しむ「構造的な逆風下」にある企業です。
PBR0.5倍という割安感は魅力的ですが、それは低いROEという「稼げない体質」の裏返しでもあります。配当利回り3.5%は魅力的ですが、利益以上に配当を出している状態は長続きしません。
投資初心者の方は、まず2026年5月の本決算を見極めてから判断することをお勧めします。割安株への投資は「企業価値が回復して株価が上昇する」シナリオが成立して初めて報われます。構造的な課題を抱える同社への投資は、その解決の道筋が見えるまで慎重に構えるのが賢明でしょう。
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断は必ずご自身の責任において行ってください。株式投資には元本割れのリスクがあります。





















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