目次
- 1 三菱重工業の成長戦略2024:脱炭素技術とデータセンター事業で描く未来図
- 1.1 三菱重工業の2つの重要目標
- 1.2 圧倒的な業績:受注高7兆円突破と財務基盤の強化
- 1.3 エナジーセグメント:世界No.1のGTCC事業と原子力の再拡大
- 1.4 プラント・インフラセグメント:システムインテグレータへの進化
- 1.5 物流・冷熱・ドライブシステム:省人化・自動化と自然冷媒対応
- 1.6 航空・防衛・宇宙:国家安全保障への貢献と事業拡大
- 1.7 成長領域:データセンター事業の急拡大とGXセグメント
- 1.8 「2024事業計画」:1.2兆円投資と全社最適化戦略
- 1.9 MISSION NET ZERO:自社工場での実証と社会実装
- 1.10 経営陣の交代と新たな経営方針
- 1.11 課題認識と対応策
- 1.12 コーポレート・ガバナンス:透明性と実効性の追求
- 1.13 投資家・ビジネスパーソンへの総括的示唆
三菱重工業の成長戦略2024:脱炭素技術とデータセンター事業で描く未来図
公開日:2025年1月23日 | カテゴリー:ビジネス・テクノロジー
三菱重工業(MHI)が、歴史的な転換期を迎えている。同社は「長い歴史の中で培われた技術に最先端の知見を取り入れ、変化する社会課題の解決に挑み、人々の豊かな暮らしを実現する」というミッションのもと、過去最高水準の業績を背景に、次なる飛躍に向けた大規模な投資戦略を展開している。2024年度の受注高は7兆円を超える見込みで、特に注目すべきはデータセンター向け電源事業の急成長と、脱炭素技術への1.2兆円規模の大規模投資だ。
三菱重工業の2つの重要目標
- MISSION NET ZERO:グローバル社会全体のNet Zero実現に貢献
- 安全・安心・快適な社会:地域や顧客に応じた実用的なソリューションの提供
圧倒的な業績:受注高7兆円突破と財務基盤の強化
三菱重工の2024年度の業績は、日本の重工業界において際立った存在感を示している。第3四半期累計の受注高は4兆9,689億円に達し、通期では7兆712億円を予測。これは2023年度の6兆6,840億円を大きく上回る数字だ。
全社受注高の推移
年度 | 受注高(億円) |
---|---|
2023年度 | 66,840 |
2024年度予測 | 70,712 |
2024-26計画平均 | 55,000+ |
セグメント別業績の詳細分析
三菱重工は、「エナジー」「プラント・インフラ」「物流・冷熱・ドライブシステム」「航空・防衛・宇宙」の4つの報告セグメントを基軸に事業を展開している。2024年4月1日には、エナジートランジション事業の強化を目的としてGXセグメントが新設された。
セグメント | 受注高(億円) | 前年同期比 | 売上収益(億円) | 事業利益(億円) | 利益率 |
---|---|---|---|---|---|
エナジー | 13,067 | △91億円 | 8,321 | 1,032 | 12.4% |
プラント・インフラ | 5,994 | +1,767億円 | 3,791 | 281 | 7.4% |
物流・冷熱・ドライブシステム | 6,576 | +77億円 | 6,328 | 269 | 4.3% |
航空・防衛・宇宙 | 8,021 | △1,973億円 | 4,317 | 440 | 10.2% |
その他(成長領域) | 426 | +402億円 | 375 | 170 | 45.3% |
※2024年度上半期(4月1日~9月30日)実績
セグメント別売上収益構成比(2024年度上半期)
セグメント | 売上収益(億円) | 構成比 |
---|---|---|
エナジー | 8,321 | 36.2% |
プラント・インフラ | 3,791 | 16.5% |
物流・冷熱・ドライブシステム | 6,328 | 27.5% |
航空・防衛・宇宙 | 4,317 | 18.8% |
その他 | 375 | 1.6% |
財務健全性の維持と株主還元
財務面では、2024年9月30日現在の資産合計は6兆4,770億69百万円で、前連結会計年度末から2,208億9百万円増加した。親会社の所有者に帰属する持分は2兆2,588億94百万円、親会社所有者帰属持分比率は31.8%と健全な水準を維持している。
主要財務指標(2022年度IFRS基準)
- ROE(親会社の所有者に帰属する持分当期利益率):7.9%
- ROA(総資産利益率):3.6%
- 売上収益事業利益率:4.6%
- D/Eレシオ:40%
- PER(株価収益率):12.55倍
- EPS(基本的1株当たり当期利益):388.43円
- BPS(1株当たり親会社所有者帰属持分):5,183.10円
株主還元については、DOE(株主資本配当率)4%以上を目安とする累進配当を実施。2024年6月27日開催の定時株主総会では、普通株式の配当金総額40,432百万円、1株当たり120円が決定された。なお、2024年4月1日付で1株につき10株の株式分割を実施している。
エナジーセグメント:世界No.1のGTCC事業と原子力の再拡大
GTCC(ガスタービン・コンバインドサイクル):2年連続世界シェアNo.1
三菱重工のガスタービン事業は、2022年、2023年と2年連続で世界市場(出力ベース)でトップシェアを獲得している。高い性能と信頼性、そして将来的な水素焚きへの転換といった拡張性が世界中の顧客から評価されている。
GTCCの競争優位性
- 高性能な大型機種と市場投入前の実機検証による高い信頼性
- CO2回収装置との運用最適化技術
- 水素/アンモニア焚き転換への対応力
- 「TOMONI®」による高度なサービス提案
特筆すべきは、脱炭素社会に向けた技術開発への積極投資だ。高砂水素パークでは、JAC形ガスタービンでの水素30%混焼運転、H-25形での水素100%専焼試験に成功。2030年までに水素100%燃焼可能なガスタービンの商用化を目指している。
市場環境も追い風となっている。天然ガスを燃料とするGTCCは、石炭火力発電の代替として、また再生可能エネルギーの拡大に伴う調整電源として需要が拡大。さらに、AI需要の急拡大に伴うデータセンター向けのオンサイト電源としても注目を集めている。
原子力事業:革新軽水炉「SRZ-1200」と海外展開
「原子力活用推進」という国の方針を踏まえ、三菱重工は原子力事業の拡大を推進している。事業は大きく4つの柱で構成される。
1. 国内既設炉の支援事業
- PWR(加圧水型原子炉)およびBWR(沸騰水型原子炉)の再稼働支援
- 特定重大事故等対処施設(特重)の建設
- 燃料サイクル確立支援
- 長期安定運転に向けた保全工事
2. 革新軽水炉「SRZ-1200®」の開発
建設サイトが決まらない中でも設計検討はほぼ完了し、現在は安全性確認試験のフェーズに入っている。この革新炉は、安全性と経済性を両立させた次世代原子炉として期待されている。
3. 次世代炉の開発
高速炉および高温ガス炉の実証炉開発に中核企業として参画。これらの炉は、より効率的な核燃料の利用や、水素製造への応用が期待されている。
4. 海外展開
フランス電力(EDF)向け取替蒸気発生器(SG)3基の製造を完了。今後も海外の既設・新設プラント向け機器輸出の増加が見込まれる。
これらの事業を支えるため、人的リソースの拡充や生産設備の更新・高機能化への投資も進めている。特に設計人員を中心とした人材確保と、老朽化した設備の更新、新製品(キャスクなど)のための設備投資に注力している。
プラント・インフラセグメント:システムインテグレータへの進化
プラント・インフラセグメントは、製鉄機械、商船、エンジニアリング、環境設備、機械システムなど多岐にわたる事業を展開している。2024年度上半期の受注高は5,994億円(前年同期比+1,767億円)、事業利益は281億円(前年同期比+120億円)と好調だ。
製鉄機械:脱炭素化技術の開発
製鉄プロセスの脱炭素化は、世界的な課題となっている。三菱重工は、欧州で水素還元製鉄のパイロットプラントを顧客と共に計画しており、従来の高炉に代わる革新的な製鉄技術の実用化を目指している。
環境設備:AI活用による高度化
環境設備分野では、AI遠隔監視・運転支援システム「MaiDAS®」を導入し、O&M(運用・保守)の高度化を実現。これにより、設備の稼働率向上と保守コストの削減を両立させている。
システムインテグレータとしての価値提供
製鉄機械や商船などの分野では、単なる機器供給者から、コア技術と設計の提供によるシステムインテグレータとしてのポジション確立を目指している。これにより、顧客に対してより包括的なソリューションを提供し、付加価値を高めている。
物流・冷熱・ドライブシステム:省人化・自動化と自然冷媒対応
物流・冷熱・ドライブシステムセグメントは、物流機器、ターボチャージャ、エンジン、冷熱製品、カーエアコンなど、幅広い製品群を有している。2024年度上半期の受注高は6,576億円、売上収益は6,328億円となった。
物流機器:ΣSynX®による革新
物流機器分野では、「ΣSynX®(シグマシンクス)」を活用した省人化・自動化製品の投入を進めている。新型フォークリフトなどの開発により、人機協調・機器連携を実現し、物流現場の生産性向上に貢献している。
ΣSynX®の特徴
- 長年のノウハウとAI・量子技術などの最新知見を統合
- 製品機能の高度化と統合監視の実現
- 運用保守の知能化
- 多様な機械・製品を「かしこく・つなぐ」エコシステムの構築
冷熱製品:自然冷媒への転換
環境規制の強化に対応し、CO2冷媒冷凍冷蔵コンデンシングユニット「C-puzzleシリーズ」など、自然冷媒対応機の開発を推進。ヒートポンプなどの省エネ機器も含め、環境負荷の低い製品ラインナップを拡充している。
エンジン:クリーンフューエル対応
エンジン分野では、水素やアンモニアなどのクリーンフューエルに対応した製品の開発に取り組んでいる。これらの技術は、船舶や発電用途での脱炭素化に貢献することが期待されている。
航空・防衛・宇宙:国家安全保障への貢献と事業拡大
航空・防衛・宇宙セグメントは、2024年度上半期の売上収益が4,317億円(前年同期比+35.4%)、事業利益が440億円(前年同期比+60.3%)と大幅な増収増益を達成した。
防衛事業:5つの重点分野
国家安全保障環境の変化を受けて、防衛事業では以下の5つの重点分野を設定し、事業拡大を図っている。
- スタンドオフ防衛:陸・海・空全般にわたる遠距離からの防衛能力の強化
- 統合防空ミサイル防衛:多層的な防空システムの構築
- 次期戦闘機開発:英国・イタリアとの共同開発プログラム(GCAP)への参画
- 無人アセット防衛:航空・海洋・陸上無人機の開発と運用
- 防衛宇宙:通信、航法、情報収集等の宇宙アセット活用
これらの事業拡大に対応するため、開発・生産能力を約3割増強する計画を進めており、小牧北新工場の建設などの設備投資と、人的リソースの最適活用を図っている。
宇宙事業:H3ロケットの成功
宇宙事業では、H3ロケット3~5号機の打ち上げに成功し、事業拡大の基盤を固めた。今後は、商業衛星打ち上げ市場でのシェア拡大を目指している。
民間航空機:ボーイング787主翼生産
民間航空機分野では、ボーイング787型機の主翼生産を継続。航空機産業の回復に伴い、生産量の増加が見込まれている。また、アフターマーケット事業の強化も進めている。
成長領域:データセンター事業の急拡大とGXセグメント
2024年4月1日に新設されたGXセグメントは、エナジートランジション事業のさらなる強化を目的としている。その中でも特に注目を集めているのが、データセンター向け事業だ。
データセンター事業:予想を上回る成長
AI需要の急拡大に伴い、データセンターの電力需要が爆発的に増加している。三菱重工は、この市場機会を的確に捉え、機電設備の供給事業を開始した。
データセンター事業の特徴
- 電源・冷却・制御のワンストップソリューション提供
- 大容量電力需要に対応する大型ガスタービンの活用
- 高負荷変動に対応する次世代配電・冷却技術
- 機械システムの知能化による効率化
- 米国事業拠点設立によるグローバル展開
経営陣は「データセンター事業は当初想定よりも伸びており、今後もポテンシャルがある」と評価。2030年には新事業全体で1兆円規模の売上を目指しているが、データセンター事業はその中核を担うと見込まれている。
データセンターは大容量の電力を必要とし、LNGを使うガスタービンが早期導入と安定稼働の観点から有力な選択肢として浮上している。将来的には、SMR(小型モジュール炉)の導入も検討されているが、日本の耐震基準などの課題から、米国よりも導入は遅れる可能性がある。
水素・アンモニア事業:世界最大規模のプロジェクト推進
水素・アンモニア関連事業では、具体的なプロジェクトが次々と実現している。
ACES(Advanced Clean Energy Storage)プロジェクト
米国ユタ州で世界最大規模の水素製造・貯蔵・供給プロジェクトの建設を完了し、試運転を開始。このプロジェクトでは以下を実現する:
- 1日100トンのグリーン水素製造
- 地下岩塩層での大規模水素貯蔵
- ガスタービン発電所への水素供給
高砂水素パーク
国内では、高砂水素パークで以下の成果を達成:
- アルカリ水電解装置による水素製造開始
- 水素製造・貯蔵・利用の各設備の連携稼働実現
- 次世代高効率水素製造技術SOEC(固体酸化物水蒸気電解)デモ機の稼働開始(2024年春)
さらに、米国水素ハブやシンガポールでのアンモニアバンカリングなどのプロジェクト具体化を図り、バリューチェーン構築のためのパートナリングを進めている。
CCUS(CO2回収・利用・貯留):商用化への道筋
CCUS技術でも着実な進展が見られる。
CCUS事業の進展
- 関西電力姫路第二発電所:CO2回収パイロットプラント(5トン/日)稼働開始
- ExxonMobil社との協業:次世代CO2回収技術の共同開発加速
- 「CO2MPACT」:標準・モジュール化した中小型装置(1~200トン/日)の市場投入
- JOGMECの先進的CCS事業への参画
- バリューチェーン構築:CO2液化・輸送船、CO2コンプレッサの開発
特に製鉄やセメントなど、脱炭素化が困難とされる「Hard-to-abate」産業分野への貢献を目指しており、経済性の改善に焦点を当てた開発を継続している。
「2024事業計画」:1.2兆円投資と全社最適化戦略
三菱重工は、2024年度から2026年度までの3年間を対象とした「2024事業計画」において、総額1.2兆円という過去最大規模の投資を計画している。これは21事業計画期間(2021-2023年度)の3,300億円から実に3.6倍の増額だ。
2024事業計画 投資配分
投資領域 | 投資額(億円) | 主な内容 |
---|---|---|
伸長事業(GTCC・原子力・防衛) | 6,500 | 生産能力増強、水素燃焼技術開発、設備更新、革新炉開発、小牧北新工場建設 |
成長領域(データセンター・水素・CCUS) | 3,500 | 米国拠点設立、ACES、高砂水素パーク、CO2MPACT商用化 |
基盤強化(デジタル・脱炭素・M&A) | 2,000 | ΣSynX展開、DI人材2万人育成、三原製作所モデル工場、エナジートランジション関連M&A |
合計 | 12,000 | – |
「Innovative Total Optimization」経営方針
この経営方針は、組織の連携強化による全体最適と、新たな価値提供による領域拡大を組み合わせ、高利益体質と成長投資の好循環を実現することを目標としている。
全体最適の取り組み
- あらゆる業務のリードタイム半減を目指す
- 社内エキスパートの集中投入による開発スピードアップ
- 生産の自動化・DX推進
- 組織間のベストプラクティス共有
- 組織内の情報共有による滞留削減
領域拡大の取り組み
- 潜在的ニーズの先読み
- 異分野を「かしこく・つなぐ」ことによる新価値創出
- ライセンス供与やパートナリングの活用
- ITを活用したスピーディーな市場アプローチ
- 桁違いに多くの顧客への価値提供
人材戦略:2万人のDI人材育成
技術・人的基盤の強化として、2030年までに2万人強のDI(デジタルイノベーション)人材を育成する目標を掲げている。具体的な施策は以下の通り:
- 採用方法の多様化:採用ブランディング強化、米・欧での採用プラットフォーム活用、アルムナイ採用等
- 人材要件の可視化と育成サイクルの構築:グローバルHRシステム活用、教育体系刷新等
- 人材流動性の向上:グループ横断でのタレント可視化、社内人材公募の促進
- 新たな挑戦の支援:社員派遣プログラムなどの推進
- 多様な人材が活躍できる職場環境の整備
また、熟練技術・技能の形式知化と若手への伝承も重要な課題として取り組んでいる。
MISSION NET ZERO:自社工場での実証と社会実装
三菱重工は、自社のCO2排出削減にも積極的に取り組んでいる。その象徴的な取り組みが、三原製作所のカーボンニュートラル化だ。
三原製作所のカーボンニュートラル化計画
目標:2021年度比で97.7%のCO2排出削減
- 太陽光発電設備の導入
- ボイラの稼働削減・ヒートポンプ化
- 照明のLED化
- 空調の負荷低減・インバータ更新
- 機械加工機の運転最適化
この工場で培ったノウハウを他の工場や顧客の工場診断サービスとして展開し、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する計画
全社的には、以下の目標を掲げている:
- 自社グループのCO2排出量:2030年までに2014年比50%削減、2040年までにNet Zero達成
- バリューチェーン全体での貢献(Scope3+CCUS削減貢献):2030年までに2019年比50%削減、2040年までにNet Zero達成
経営陣の交代と新たな経営方針
2024年6月に就任した伊藤栄社長は、「高収益体質を実現する」ことに軸足を置いた経営を推進している。これは、中長期的な成長投資を増やすためであり、三菱重工グループには多くの成長投資のポテンシャルが存在すると考えている。
伊藤社長の経営方針
- 高収益体質と将来への成長投資の好循環を、かつてないスピードで回す
- 2024事業計画は概ね計画通りに進捗していると評価
- 全社で事業利益率8%以上という目標達成を目指す
- サービス事業の拡大、環境対応製品の強化、拠点の統廃合、リソースシフトなどを推進
課題認識と対応策
サプライチェーンの課題
10兆円に及ぶ受注残を抱える中、サプライチェーン全体に負担がかかっていることを経営陣も認識している。対応策として以下を実施:
- ボトルネックの早期特定
- 自動化技術の積極導入
- プロセスの並行作業化
- サプライチェーンの強靭化
- 設備増強と新工場建設(米国ジョージア州サバンナ工場稼働など)
外部環境の変化への対応
2024事業計画策定時からの外部環境の変化として、以下を認識:
顕在化した外部環境の変化
- 脱炭素関連プロジェクトへの投資低迷:一方で天然ガスの役割増加によりGTCC等で事業機会
- データセンター需要の伸長:予想を上回る成長
- 防衛力整備計画の着実な実行:防衛予算の増額
- 米新政権発足に伴う政策影響:関税影響は価格転嫁を基本方針
- 社会インフラの老朽化:更新需要の拡大
- グローバルサプライチェーンのリスク
- 中国経済状況と輸出増加
※為替レート前提:対ドル140円、対ユーロ150円
コーポレート・ガバナンス:透明性と実効性の追求
三菱重工は、社会の基盤づくりを担う責任ある企業として、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るため、コーポレート・ガバナンスの継続的な強化に努めている。
ガバナンス体制
機関設計
会社法上の機関設計として「監査等委員会設置会社」を採用。これにより、取締役会による実効性の高い経営監督と、業務執行の一部委任による迅速な意思決定を両立させている。
取締役会の構成
- 取締役総数:12名
- うち監査等委員である取締役:5名
- 社外取締役:6名(取締役会全体の3分の1以上)
- 独立性基準を満たす独立社外取締役を確保
役員指名・報酬委員会
2024年9月に「役員指名・報酬諮問会議」から改組。取締役候補者の指名、解任、CEOその他の経営陣幹部の選解任、報酬決定に関する議案を策定し発議する機関として、透明性と健全性を向上させている。
チーフオフィサー制
- CEO(社長):全社統括
- ドメインCEO:各ドメイン長
- CSO(最高戦略責任者):戦略機能統括
- CFO(最高財務責任者):財務機能統括
- CTO(最高技術責任者):技術機能統括
各チーフオフィサーはそれぞれの機能について全社に対する指揮・命令権を持ち、ドメインを支援する体制となっている。
内部統制システム
業務の適正を確保するため、取締役会で決定した内部統制システムを適切に整備・運用しており、年1回、その状況を取締役会に報告している。主な内容:
- 監査等委員会の職務を補助する専属スタッフの配置と独立性の確保
- 取締役等から監査等委員会への報告体制の整備
- リスク管理体制の整備
- 職務執行の効率性確保
- 企業集団全体における業務の適正確保
株主・投資家との対話
株主、顧客、従業員、ビジネスパートナー等の全てのステークホルダーに配慮した経営を基本方針とし、以下の取り組みを実施:
- IR活動・SR活動:CFOおよびGCが統括し、機関投資家向け個別説明会、個人株主向け工場見学会などを実施
- 情報開示:日本語と英語の情報格差が生じないよう、両言語での適時適切な情報開示を推進
- 株主の権利確保:招集通知の早期発送、議決権の電子行使環境整備、集中日を避けた株主総会日程設定
- 政策保有株式:毎年取締役会で定性面(戦略的保有意義)と定量面(経済合理性)から検証を行い、合理性の低い株式は速やかに処分
投資家・ビジネスパーソンへの総括的示唆
三菱重工の戦略と業績から、以下の重要なポイントが浮かび上がる:
1. トランスフォーメーションの実現
日本の伝統的な重工業企業が、単なる「ものづくり」から、デジタル技術と脱炭素技術を融合させた「ソリューションプロバイダー」へと変革を遂げつつある。ΣSynX®に代表されるデジタル技術の活用は、製品の高付加価値化とサービス事業の強化を実現している。
2. 成長市場への的確な対応
特に注目すべきは、データセンター事業の急成長だ。AI時代のインフラ需要を的確に捉え、予想を上回る成長を実現している。2030年に向けて新事業全体で1兆円規模の売上を目指す中、データセンター事業はその中核を担うと見込まれる。
3. 脱炭素技術への戦略的投資
水素・アンモニア、CCUSといった脱炭素技術への1.2兆円規模の大規模投資は、2030年代以降の収益源確保に向けた布石として評価できる。特にACESプロジェクトやCO2MPACTなど、具体的な商用化プロジェクトが進展している点は心強い。
4. 防衛事業の拡大機会
地政学的リスクの高まりを背景に、防衛事業が急拡大している。次期戦闘機開発(GCAP)への参画や、5つの重点分野での事業展開は、長期的な収益貢献が期待できる。
5. 財務健全性と株主還元
以下の財務指標は、投資判断において重要な参考となる:
- PER:12.55倍(業界平均と比較して割安水準)
- ROE:7.9%(さらなる向上余地あり)
- D/Eレシオ:40%(健全な財務構造)
- 配当政策:DOE 4%以上を目安とする累進配当
6. リスク要因と対応
一方で、以下のリスク要因にも注意が必要:
- サプライチェーンの制約:10兆円の受注残への対応
- 人材確保の課題:DI人材2万人育成の実現可能性
- 脱炭素プロジェクトの経済性:水素・アンモニア事業の収益化時期
- 地政学的リスク:国際情勢の変化による影響
7. 中長期的な投資魅力
総合的に見て、三菱重工は以下の理由から中長期的な投資魅力を有していると考えられる:
- 脱炭素社会への移行期における技術的優位性
- データセンター、防衛、宇宙など成長市場でのポジション
- 事業ポートフォリオの多様性によるリスク分散
- グローバル展開による地域分散
- 強固な財務基盤と積極的な成長投資
三菱重工は、150年以上の歴史を持つ日本を代表する重工業企業として、時代の変化に適応しながら新たな成長ステージへと歩みを進めている。投資家やビジネスパーソンにとって、同社の動向は日本の産業競争力を測る重要な指標となるだろう。
参考資料
三菱重工業株式会社 公式ウェブサイト
2024年度第1四半期決算説明資料
2024事業計画説明会資料
コーポレート・ガバナンス報告書
楽天証券 三菱重工業特集レポート
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