「5kg2000円」発言の裏側:小泉農水相VSJAの再戦が暴く日本農業の闇



「5kg2000円」発言の裏側:小泉農水相VSJAの再戦が暴く日本農業の闇

「5kg2000円」発言の裏側:小泉農水相VSJAの再戦が暴く日本農業の闇

「令和の米騒動」で浮き彫りになった、巨大組織JAと農家の歪んだ関係。小泉進次郎農水相の改革は成功するのか、それとも9年前の悪夢を繰り返すのか

緊急事態:政府が備蓄米21万トンの放出を決定。小泉進次郎農水相は「5kg2000円」を連呼するも、JAグループは1兆9,000億円の巨額赤字で組織存続の危機に直面

衝撃の価格推移

米5kg価格の変遷(東京都区部)

・2024年2月:2,300円
・2025年2月:4,239円(約84%上昇)
・消費者物価指数:前年同月比+70.9%

出典:農林水産省、総務省統計

「コメ担当大臣」の激震デビュー

2025年5月21日、「コメ買ったことない」発言で辞任した江藤拓前農水相の後任として、小泉進次郎氏が農林水産大臣に就任した。就任会見で彼が連呼したのは「5kg2000円程度」という具体的な米価目標だった。

「毎日の生活の中で日々感じておられるコメの高騰に対して、スピード感をもって対応できるように全力を尽くしていきたい」
―小泉進次郎農水相(就任会見)

しかし、この発言は農業界に激震を走らせた。政府がこれまで避けてきた市場価格への直接介入を明言したからだ。自民党の森山裕幹事長からも「現場を知ってるわけではない」と厳しい苦言が飛び出した。

「消えた21万トン」の謎

今回の米価高騰で最も注目されているのが、農協などの集荷業者による2024年7月から12月の集荷量が前年同期比21万トン減少している問題だ。「消えた21万トン」として報道されているこの現象の背景には、農家の直接販売の急増がある。

実際、大手外食業者などが農協を通さず農家から直接買い入れを増やしている。これは農協の中間マージンを嫌った農家と企業の新たな取引関係を示しており、従来の農協主導の流通構造に亀裂が入り始めている証拠と言える。

9年前の屈辱:農協改革の「完敗」

小泉進次郎氏と農協の因縁は深い。2016年、自民党農林部会長だった彼は農協改革に挑戦し、「完敗」と評された苦い経験を持つ。

2016年農協改革の経緯

当初案:JA全農に1年以内の組織・事業改革を要求
農協の反発:1,500人の反対集会で猛抗議
最終結果:年次計画による「自主的改革」に骨抜き

当時35歳だった小泉氏は改革案をまとめた後、「一言で振り返ると、”負けて勝つ”ですかね」と憔悴しきった顔で語った。農水省担当記者は「骨抜きと言っていい内容。これで農協が改革できるとはとても思えません。完敗ですよ」と評している。

JAの政治力の実態

農協の政治的影響力は絶大だ。かつて「農政トライアングル」と呼ばれた農水省、JA、農林族議員の利益共同体は今も健在。特に選挙では農村票の組織票として無視できない存在だ。

JAグループ崩壊の序曲:1兆9,000億円の衝撃

しかし、今回の状況は9年前とは根本的に異なる。JAグループの中核である農林中央金庫が2025年3月期に1兆9,000億円の最終赤字を計上する見通しとなったのだ。

項目金額・影響要因
最終赤字予測1兆9,000億円米国金利上昇による外債「逆ざや」
資本増強必要額1兆2,000億円JAグループから拠出
赤字転落JA数191組合全JA585組合の約33%

この巨額損失は、リーマンショック時(5,721億円の赤字)を大幅に上回る規模だ。農林中金は運用資産56兆円のうち約6割を海外債券に集中させており、米国金利上昇で大きな損失を被った。

「自爆営業」という闇

JAの構造的問題は金融だけではない。共済事業では職員への過酷なノルマが「自爆営業」を生み出している。

自爆営業の実態

・職員自腹加入額:月額平均5万4,067円(最大40万円以上)
・JAおおいた:職員の約7割が給与総額の1割以上を共済掛金として支払い
・第三者委員会で実態が判明

農家の「JA離れ」が加速

米価高騰と農協の混乱の中、農家の「JA離れ」が顕著になっている。都市近郊では「東京NEO-FARMERS」のような若手農家グループが、JAを通さず独自の販売ルートを開拓している。

彼らは「何を作るかを自分で決め、自分で売るために農業を選んだ」として、JAの画一的なシステムを敬遠。SNSやECサイトを活用した直接販売が急速に拡大している。

准組合員の逆転現象

JA組合員構成の異常事態(令和4年度)

・正組合員(農家):393万人
・准組合員(非農家):634万人
・総組合員数:1,027万2千人

出典:農林水産省統計

現在のJAでは、農家ではない准組合員が多数を占めている。しかし准組合員は事業を利用できるが議決権や選挙権を持たない。これは「利用者がコントロールする」という協同組合の基本原則から完全に逸脱している。

小泉農政改革2.0の行方

小泉農水相は就任後、早速行動を起こした。政府備蓄米の放出方式を競争入札から随意契約に変更し、61社との契約を成立させた。アイリスオーヤマなど異業種企業も参入し、従来のJA主導の流通に風穴を開けた。

減反廃止への布石

小泉氏の真の狙いは米価抑制の先にある。事実上の生産調整(減反)を排し、コメの増産を推進。作りすぎて余った場合は輸出したり、価格が下落した際は農家に補償したりする方策を検討している。

「必要な見直し、点検をしないといけないのは明らか。まず過度なコメの価格高騰を抑制できたという成果を届ける」
―小泉進次郎農水相(記者会見)

専門家の厳しい見方

しかし、専門家の見方は厳しい。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「備蓄米を5キロ2000円で放出しても、コメ全体の価格には影響はない。本当に値段を下げたいなら減反廃止と輸入関税の削減に取り組まないといけない」と指摘する。

また、備蓄米放出は一時的な措置に過ぎず、「期間限定の特売セール」になるだけという批判も根強い。JAの反発も予想され、コメ増産で米価が下落すれば手数料収入の減少などにつながるためだ。

国際比較で見えるJAの異常性

世界各国の農業協同組合と比較すると、日本のJAの特殊性が際立つ。デンマークやオランダの農協は事業特化型で、農産物の販売や加工に集中。アメリカでも機能別に特化している。

一方、日本のJAは「ゆりかごから墓場まで」を標榜する総合事業体だ。しかし、本来の使命である農業関連事業は79億円の赤字で、金融・保険事業の収益に依存する構造となっている。

結論:改革か破綻か

「令和の米騒動」は、戦後日本の農業政策の矛盾を白日の下にさらした。1,000万人を超える組合員と100兆円を超える資産を持つ巨大組織JAは、今や農家のための組織から金融コングロマリットへと変貌している。

小泉進次郎農水相の「5kg2000円」発言は、単なる価格目標ではない。日本の農業と食料安全保障の未来をかけた構造改革への宣戦布告なのだ。

9年前に屈辱を味わった小泉進次郎氏のリベンジは成功するのか。それとも再び農協の分厚い岩盤に阻まれるのか。この戦いの行方が、日本の食と農の未来を決定する。

JAが真に農家と農業のための組織として再生するか、それとも既得権益を守るために最後の抵抗を続けるか。2025年夏の新米シーズンまでに、その答えが明らかになるだろう。

国民が注目すべきは、米価の数字だけではなく、この改革が日本農業の持続可能性をもたらすかどうかだ。小泉農政改革2.0の真価が問われる時が来た。



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