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- 1 ベッセント財務長官来日で揺れる日本政界:参院選前日の「歓迎」ムードに潜む皮肉と不安
ベッセント財務長官来日で揺れる日本政界:参院選前日の「歓迎」ムードに潜む皮肉と不安
トランプ大統領は7月19日、スコット・ベッセント財務長官が率いる政府代表団を日本に派遣することを発表した。大阪・関西万博のアメリカナショナルデーという表向きの理由とは裏腹に、その訪問タイミングは参院選投票日(7月20日)の前日。この絶妙な政治的タイミングに、日本のネット上では皮肉交じりの「歓迎」ムードが広がっている。
「静かな殺し屋」ベッセント財務長官とは何者か
スコット・ベッセント氏は、ウォール街で「静かな殺し屋(Silent Killer)」の異名を持つ投資家だ。ソロス・ファンドでの成功を経て、自身のヘッジファンドを設立。2013年には円安に賭けて巨額の利益を上げた経験を持つ。
ベッセント財務長官の経歴
- • 元ソロス・ファンドの投資家
- • 2025年に財務長官就任(就任後初の日本訪問)
- • 知日派として知られ、浜田宏一氏らと交流
- • 安倍晋三氏の「三本の矢」をモデルにした経済プランをトランプ氏に提案
- • 2024年にトランプ氏の選挙活動で約5,700万ドルの資金集め
興味深いのは、彼の政治的変遷だ。かつてアル・ゴア、ヒラリー・クリントン、バラク・オバマに献金していた過去を持つが、2016年にはトランプ氏に100万ドルを献金。2024年2月と4月には、トランプ氏の選挙活動募金イベントを主催し、合計で約5,700万ドルの資金を集めた。
ベッセント氏は知日派としても知られる。ソロス氏の紹介で日本の浜田宏一氏らと交流を持ち、安倍晋三氏の「三本の矢」をモデルにした三つの経済プランをトランプ氏に提案している。次期財務長官候補として有力視されながらも、イーロン・マスク氏やロバート・ケネディ・ジュニア氏などからは「変化をもたらさない」と反対された経緯もある。
25%関税の衝撃:交渉決裂なら8月1日から発動
今回の訪日の背景には、日米間の深刻な関税問題がある。トランプ大統領は7月7日、協議がまとまらない場合、8月1日から日本に対して25%の追加関税を課すとの書簡を送付した。これは従来の24%から1ポイント増となる数字だ。
ベッセント長官が掲げる交渉の4つの焦点:
- 1. 関税
- 2. 非関税障壁(実際の貿易問題の核心)
- 3. 為替操作
- 4. 賃金や産業補助金の有無
― ドナルド・トランプ大統領
ホワイトハウスは、この25%という数字でさえ貿易赤字解消に必要な水準を「はるかに下回る」と説明している。また、為替問題も協議されるとベッセント長官は述べており、「日本はいま難しい、参院選があるため」と、参院選を通過するまでは事態に進展が見られない可能性を示唆している。
日本政府内で割れる見方
今回の25%の関税率について、日本政府内では見方が割れている。
楽観派(外務省関係者):「当初の30~35%から数値が下がった」
悲観派(別の政府関係者):「日本が求めている自動車関税の引き下げをする気がない、つまりトランプ大統領が日本の条件を飲むつもりがないということが改めて分かった」
また、書簡から真剣に合意に向けて協議しようという「熱が全く感じられなかった」という声も聞かれている。日本政府関係者によると、これまでの交渉の成果について「1割は日本の成果だとしても9割はあのトップの誠意だ」とし、問題はアメリカの担当者が日本からの主張をトランプ大統領に上げるタイミングを見出せていない「アメリカのガバナンスの問題」だと指摘されている。
日本企業に広がる不安
25%の関税引き上げは、日本企業に深刻な影響を与える可能性がある。
企業からの具体的な声:
🏭 醤油製造会社:「来年の輸出に関してはちょっと不透明感が出てる」
🏭 マスタード製造販売会社:「正直分からない」(戸惑いを隠せない)
🏭 自動車部品製造会社:「本当に不透明で我々もちょっと予測はできない状態」(自動車メーカーからの指示待ち)
G20欠席してまでの来日:その重要性
注目すべきは、ベッセント長官がG20会議を欠席してまで来日することだ。これは今回の訪日の重要性を物語っている。彼の訪日は就任後初めての日本訪問となる。
石破政権との会談はあるのか:建前と本音の間で
米国政府関係者によると、ベッセント長官の訪日は万博への出席が主目的で、日本側との正式な二国間会談や貿易協議は予定されていないと伝えられている。しかし、これはあくまで「建前」の話だ。
日本政府は、ベッセント長官が万博に出席する際には赤沢亮正経済再生担当大臣が応対にあたる方針を示しており、万博出席以外の日程も調整中とされている。複数の関係者によると、このタイミングに合わせ赤沢大臣とベッセント長官による関税協議を行う方向で調整しているという。
これまでの交渉経緯:7回の協議と石破首相の30分会談
赤沢経済再生担当大臣は、トランプ政権からの関税措置の見直しを求め、2025年4月17日から複数回にわたり渡米し、既に7回の関税協議を実施してきた。
6月16日(日本時間17日)には石破首相がトランプ大統領と30分間会談したが、関税措置について双方の認識は一致せず、「パッケージ全体としての合意には至っていない」という結果に終わった。
トランプ政権の「SNS外交」への憤り
― 日本政府関係者(トランプ政権のSNS発表について)
ネットで広がる皮肉交じりの「歓迎」ムード
ベッセント長官の来日発表を受けて、X(旧Twitter)では「ベッセント財務長官」がトレンド入り。しかし、その内容は表面的な歓迎とは程遠いものだった。
表向きの大歓迎?
大量の「w」を付けて歓喜を装いながら、実際には石破政権への揶揄を込めた投稿が相次いでいる。
まるで幕末の嘆願のように日本側が平伏する様子を想像し、ユーモアを交えて歓迎ムードを風刺している。
石破首相の「なめられてたまるか」発言がネットミーム化
石破茂首相は関税交渉に関し「なめられてたまるか」と強気の姿勢を見せていた。しかしトランプ政権が参院選直前に追加関税25%を発表し、ベッセント長官派遣を決めたことで、この発言自体がネットミーム化している。
冗談めかした提案
その他の注目された反応
その他にも以下のような反応が見られた:
- 「万博に行くのなら関税交渉はやる気なし?」
- 「ベッセント財務長官が来日って また ニゲル💨んですか?」
- 「19日に来るのにトランプ大統領本人は来ないから一安心。警備や規制が大変だからね」
- 「参議院選挙が終わるまでは様子を見る事かな?」
参院選前日という絶妙なタイミング:政治的計算か偶然か
ベッセント長官の来日が参院選投開票日(7月20日)の前日というタイミングであることは、多くの注目を集めている。
自民党内の選挙戦略:
「中途半端に妥協したら参院選は絶対負ける」
「妥協せずに自動車関税と日本の米は守り抜く」
→ 強硬姿勢を訴える方が選挙にプラスという意見
経済界からの期待と懸念
経団連・十倉会長の発言
• トランプ政権による25%対日関税方針に「交渉中の一方的通告で遺憾」と懸念
• 日本政府には国益を損なわぬ交渉を要請
• 来日予定のベッセント財務長官との対話に期待
専門家の分析:日本の選択肢は限られている
アメリカの政治経済に詳しいホリサーチテクノロジーズの安井明彦調査部長は、日本が取れる選択肢を以下の2つに限定している:
日本の選択肢:
1. トランプ大統領が折れるのを待つ
2. ある程度譲って交渉を妥結する
※トランプ大統領は「大きくて分かりやすい成果」を求める傾向
※関税が以前のように下がることはもはやないという前提での対応が必要
相互関税と貿易赤字:トランプ政権の論理
トランプ大統領の関税政策は、日本がアメリカ製品に課す関税率と同じ割合をアメリカも日本の輸入品に課す「相互関税」をちらつかせる側面がある。これに対し、日本はアメリカに関税を上げていないと反論するが、アメリカ側は貿易赤字を理由としている。
中国の反発と日米同盟の行方
― 中国外務省(日米首脳会談の共同声明について)
日本共産党は、「日米同盟絶対」の思考停止から抜け出し、米国と対等の友好関係を築き、自主的な平和外交に転換することを訴え、参院選で自公政権を少数に追い込むよう主張している。
今後の展望:万博視察か、実質的な関税協議か
7月19日のベッセント長官来日は、日米関係の今後を占う重要な試金石となる。表向きは万博視察でも、実質的には日米関税協議の重要な節目となる可能性が高い。
日本政府は難しい選択を迫られている。参院選を控えた状況で大幅な譲歩は政治的に困難だが、8月1日の関税発動を避けるためには何らかの妥協が必要かもしれない。
最終的に、日本がどのような対応を取るにせよ、「関税が以前のように下がることはもはやない」という現実を受け入れ、その上でいかに国益を守るかが問われている。参院選という政治的節目と、8月1日という関税発動期限の狭間で、石破政権の外交手腕が試される重要な局面を迎えている。
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