アストロスケールの将来性と株価予想|黒字化はいつ?デブリ除去市場の成長シナリオを完全解説



宇宙デブリ除去の世界的パイオニアであるアストロスケールホールディングス(186A)は、2025年10月期の中間決算で売上高が前年同期比2.6倍に急伸し、営業赤字も6割縮小した。 受注残高は約444億円に達し、防衛関連需要の急拡大という新たな成長エンジンも加わっている。一方でPSR(株価売上高倍率)60倍超という極めて高いバリュエーションや、依然として年間約100億円規模の営業赤字が続く現実もある。本稿では、財務データ・事業戦略・市場環境・株価動向・リスク要因の5つの切り口から、同社の成長シナリオの現実性を検証する。


売上急成長の裏に残る年間100億円超の赤字構造

アストロスケールの業績推移を振り返ると、創業期からの急速な成長と、それを上回るペースでの先行投資という二面性が鮮明に浮かび上がる。

売上収益(IFRS基準)は2020年4月期のわずか0.84億円から、2024年4月期には28.52億円へと約34倍に拡大した。ただし2025年4月期は新規衛星の収益化遅延により24.56億円と前期比13.9%減となった点は留意が必要である。同社はIFRS適用企業のため、政府補助金収入が売上収益に含まれない。補助金を含む「プロジェクト収益」ベースでは2025年4月期に60.88億円と着実に成長しており、補助金収入36.3億円が実質的な事業収入を押し上げている。

決算期売上収益営業損益最終損益自己資本比率
2022年4月期9.10億円△64.04億円△54.84億円
2023年4月期17.92億円△96.65億円△92.64億円48.9%
2024年4月期28.52億円△115.55億円△91.81億円21.6%
2025年4月期24.56億円△187.55億円△215.51億円18.2%
2026年4月期予想50〜60億円△93〜103億円△97〜107億円35.0%

2025年4月期に営業損失が187.55億円へ急拡大した主因は3つある。第一に受注損失引当金の計上、第二に未受注案件への先行開発費用の増大、第三に為替差損21.8億円と支払利息6.6億円の金融費用の膨張である。税引前損失は215.50億円に達した。5カ国にグローバル拠点を持ち、従業員約480名(うち約7割がエンジニア)を抱える固定費構造がコストを押し上げている。

資金面では、2024年6月のIPOで約238億円、2025年5月の海外募集増資で約109億円を調達した。2025年4月末時点の現金残高は213億円、増資後は推定約320億円に達し、年間フリーキャッシュフロー流出約130〜140億円のペースでも約2年超の運転資金を確保している。自己資本比率も増資効果で18.2%から35.0%へ大幅改善した。

注目すべきは2026年4月期の上半期(2025年5月〜10月)実績である。売上収益は26.19億円と前年同期比261%増、営業損失は47.48億円と前年同期の121.21億円から約6割縮小した。通期予想(売上50〜60億円、営業損失93〜103億円)に対する進捗率は売上で52.4%と順調であり、赤字幅の改善トレンドは明確である。


ADRAS-Jが証明した「世界唯一」の技術力と受注残444億円の意味

アストロスケールの事業を語る上で最も重要な実績は、2024年のADRAS-Jミッションの成功である。JAXA CRD2(商業デブリ除去実証)のフェーズIとして、2009年に打ち上げられたH-IIAロケット上段(全長約11m、重量約3トン)に対し、民間企業として世界で初めて非協力物体への接近・観測を実現した。最終的に約15mまでの最接近に成功し、これは商業ミッションとしての世界記録となった。

この技術的意義は極めて大きい。スペースデブリは自ら位置情報を発信しない「非協力物体」であり、制御不能な状態で回転している。これに安全に接近するためのRPO(ランデブー・近傍運用)技術は、軌道上でこれを実証した民間企業がアストロスケールとNorthrop Grumman(SpaceLogistics)の2社しかないという極めて高い参入障壁を持つ分野である。同社は光学カメラによるAON航法、独自開発のMMN航法、LiDARセンサーによる近距離制御、そして自律衝突回避システム(FDIR)まで、一連の技術体系を軌道上で検証済みである。

今後のミッションパイプラインは充実している。

  • ADRAS-J2(JAXA CRD2フェーズII):同じロケット上段をロボットアームで捕獲・軌道離脱させるミッション。契約金額**120億円(税別)**で、グループ史上最大規模の単一契約
  • ELSA-M(2026年打ち上げ予定):Eutelsat OneWeb衛星を対象とした世界初の商業デブリ化防止除去サービスの実証
  • LEXI-P(2026年打ち上げ予定):静止軌道(GEO)衛星への寿命延長サービサー初号機。Orbit Fabとの燃料補給契約も締結済み
  • Refueler/APS-R(2026年夏打ち上げ):世界初の軍事衛星への燃料補給ミッション(米国宇宙軍向け)
  • 防衛省SDA衛星:機動的宇宙システム実証衛星の設計・試作。契約金額72.7億円(税込)

受注残高は2024年4月末の約54億円から、2025年4月末には444.1億円へと8倍超に急増した。全額拠出案件(顧客が全額資金を負担する契約)の比率が90%に達しており、収益の質も改善している。CEOの岡田光信氏は2027年4月期(FY2026)に営業利益のブレークイーブンに近づくことを目指すと発言しており、売上総利益ベースでは2025年4月期下半期に既に黒字化を達成したと報告されている。


宇宙デブリ市場は黎明期だが規制が需要を創出し始めている

アストロスケールが事業展開する宇宙デブリ除去・軌道上サービス市場は、まだ確立された市場とは言い難い。しかし、複数の構造的な追い風が需要を創出し始めている。

市場規模の推定は調査機関によって大きなばらつきがある。狭義の「能動的デブリ除去(ADR)」市場は2024年時点で1〜6億ドル程度、2030年代前半に6〜35億ドルに成長するとの予測が多い。一方、軌道上サービス(OOS)全体では2024年で25〜47億ドル、2030年代前半に60〜115億ドルに拡大する見通しで、CAGR 10〜12%の成長が見込まれている。Northern Sky Research(NSR)は今後11年間の累積市場規模を**182億ドル(約2.5兆円)**と推計している。

最大の市場ドライバーは規制強化である。米国FCCは2024年9月に「5年デオービットルール」を発効させ、LEO衛星の運用者に対して任務終了後5年以内の軌道離脱を義務付けた。従来の25年ガイドラインからの大幅短縮であり、衛星オペレーターにEOL(寿命末期)サービスへの需要を生み出している。ESAのZero Debris Charterには40以上の宇宙事業者が署名し、2030年までにデブリ生成ゼロを目標に掲げた。日本政府も2026年のCOPUOS(国連宇宙空間平和利用委員会)でデブリ除去の国際ルールを提案する方針を示している。

競合環境を見ると、アストロスケールのポジションは際立っている。主要競合を比較すると以下の通りである。

企業強み弱み飛行実績
AstroscaleLEO+GEO複数サービス、上場企業、日米英政府との関係大幅赤字継続、政府契約依存ELSA-d、ADRAS-J(世界初デブリ検査)
ClearSpace(スイス)ESA主契約€8,620万ClearSpace-1が2029年まで延期飛行実績なし
Northrop GrummanMEV-1/2で世界初GEOドッキング成功GEO専業、LEO未進出MEV-1(2020年)、MEV-2(2021年)
D-Orbit(イタリア)ION衛星輸送車で70+ペイロード実績デブリ除去は主力でない、SPAC上場未完了ION多数実績あり

ClearSpaceはアストロスケールの最も直接的な競合だが、メインミッションであるClearSpace-1が度重なる延期で2029年打ち上げまでずれ込んでおり、軌道上での実績はまだない。Northrop Grumman/SpaceLogisticsはGEO衛星の寿命延長で先行するが、LEO市場には進出していない。つまり、LEOデブリ除去市場において飛行実証済みの技術を持つ民間専業企業は、現時点でアストロスケールが唯一の存在と言える。

防衛需要の急拡大も見逃せない。宇宙空間の安全保障上の重要性が高まる中、日本の防衛省は72.7億円のSDA衛星試作契約をアストロスケールに発注し、米国宇宙軍もRefueler計画に2,550万ドルを投じている。同社によれば、防衛関連需要は「当社想定よりも早期に顕在化」しており、受注残高全体の約25%を占めるまでに成長した。欧州委員会(EC)が2028〜2034年の防衛・宇宙予算を前期の5倍に増額する計画も、長期的な追い風となる可能性がある。


株価1,100円台は「期待先行」か「成長の織り込み」か

2024年6月5日に公開価格850円で上場したアストロスケールは、初値1,281円(+50.7%)を付けた。ダウンラウンドIPO(直近の第三者割当発行価格1,250円を下回る公開価格)だったにもかかわらず、宇宙関連テーマへの期待から初日は大幅上昇した。

しかしその後は波乱の展開が続いた。2024年12月のロックアップ解除や、2025年1月のINCJ(産業革新投資機構)による保有株売却、2025年4月期の赤字拡大(最終損失215億円)を受けて株価は下落基調に転じ、2025年中盤には500〜700円台まで低迷した。

転機は2025年秋の政治環境の変化だった。高市政権の誕生に伴う宇宙・防衛政策への期待が株価を押し上げ、2025年10月以降は明確な上昇トレンドに入った。2025年10月28日の日米技術繁栄ディール(宇宙デブリ協力を明記)、2026年1月のJAXA宇宙戦略基金採択(支援上限15億円)などの好材料が重なり、2026年2月時点で株価は約1,100円、時価総額約1,495億円まで回復している。

アナリスト評価は概ね強気である。みずほ証券は目標株価1,200円で「買い」を継続、IFIS株予報のコンセンサスも最上位の強気評価を維持している。一方、PBR基準の理論株価は694円(レンジ449〜938円)であり、現在の株価は理論値を大幅に上回る。PSR(株価売上高倍率)は2025年4月期売上ベースで約60倍と極めて高水準にある。2026年4月期予想売上55億円ベースでも約27倍であり、赤字企業のバリュエーションとしては将来の成長への高い期待が織り込まれている状況と考えられる。

機関投資家の構成変化も注目に値する。金融機関の持株比率は2024年1月の2.64%から2025年4月の**12.20%へ大幅に上昇し、外国法人等も2.94%から9.51%**へ約3倍に増加した。専門的な投資家の参入が進んでいることは、事業への信頼性が高まっていることの間接的な証左と言える。一方で株主数は上場前67名から36,766名へ激増しており、個人投資家の裾野も大きく拡大した。


「夢の技術」と「現実のリスク」を冷静に見極める

アストロスケールの将来を評価する上で、以下のリスク要因を直視する必要がある。

継続的な赤字と資金繰りリスクが最大の懸念である。推定手元資金約320億円に対し、年間キャッシュバーン約130〜140億円が続けば、赤字が縮小しない場合は2〜3年で追加調達が必要になる。2025年5月の海外増資では発行済株式の約15%に相当する1,800万株が発行されており、今後も希薄化リスクは残る。

技術的リスクも無視できない。ELSA-dミッションではスラスタ故障による一部機能の制約が発生しており、宇宙での技術実証は常に予期せぬ障害と隣り合わせである。2026年にはELSA-M、LEXI-P、Refuelerと複数の打ち上げが予定されているが、いずれか1つでもミッション失敗が起これば、技術的信頼性と株価に大きなダメージを与える可能性がある。

市場創出リスクはより根本的な課題である。宇宙デブリ除去の商業市場はまだ存在しないに等しく、現在の収益の大部分は政府契約と補助金に依存している。FCC 5年ルールやESA Zero Debris Charterなどの規制強化は追い風だが、「デブリ除去サービスを民間企業が自費で購入する」というビジネスモデルが本格化するまでには、なお数年以上を要する可能性がある。

地政学的リスクとしては、宇宙開発が安全保障に直結するため、国際関係の変化が事業に影響を与え得る。同社は日・英・米・仏・イスラエルに拠点を持つが、各国の安全保障規制の強化により、技術移転やクロスボーダーの事業運営に制約が生じるシナリオも想定される。


3つのシナリオで見るアストロスケールの未来

以上の分析を踏まえ、今後3〜5年のシナリオを3段階で整理する。

楽観シナリオでは、2026年4月期の売上55億円を上回る上方修正が実現し、ELSA-M・LEXI-P・Refuelerの全ミッションが成功する。防衛関連需要がさらに加速し、各国政府のデブリ除去予算が拡大。受注残高は2027年4月期に700億円超に達し、2027〜2028年4月期に営業黒字化を達成する。この場合、時価総額は2,000〜3,000億円規模(株価1,500〜2,200円程度)に到達する可能性がある。みずほ証券の目標株価1,200円はこのシナリオの控えめな見方に近い。

中立シナリオでは、2026年4月期の売上はレンジ内(50〜60億円)で着地し、赤字縮小は計画通り進む。ただし2026年のミッションの一部に遅延が発生し、黒字化は2028〜2029年4月期にずれ込む。追加増資が1回発生し、10〜15%の希薄化が生じる。株価は800〜1,200円のレンジで推移し、事業の進捗に応じて徐々に上値を切り上げる展開となる。

悲観シナリオでは、ミッション失敗や大幅遅延が発生し、受注の獲得が鈍化する。宇宙デブリ市場の制度化が遅れ、商業需要が立ち上がらない。赤字削減が想定通り進まず、複数回の大型増資を余儀なくされる。この場合、希薄化と成長鈍化の二重苦で株価は500円を下回る水準まで下落するリスクがある。

現時点で最も蓋然性が高いのは中立〜やや楽観のシナリオと考えられる。根拠は3つある。第一に、2026年4月期上半期の進捗率52.4%が通期達成の確度を高めていること。第二に、受注残高444億円が今後2〜3年の売上の可視性を提供していること。第三に、防衛需要という新たな成長ドライバーが当初想定より早く顕在化していることである。


結論:ハイリスク・ハイリターンの「宇宙テーマ最前線」

アストロスケールホールディングスは、宇宙デブリ除去という人類規模の課題に対して、世界で最も先行した技術実績と事業基盤を持つ企業である。ADRAS-Jの成功は単なる技術デモではなく、将来の数兆円規模の軌道上サービス市場における「参入チケット」としての意味を持つ。受注残高444億円、防衛関連需要の急拡大、そして規制環境の追い風という3つのファクターが、中期的な成長ストーリーを支えている。

しかし同時に、年間100億円超の営業赤字が続く先行投資型企業であり、PSR約60倍というバリュエーションは将来の大幅な売上成長と黒字化の実現を前提としている。ミッション失敗、市場創出の遅延、追加希薄化といったリスクは常に存在し、投資判断においてはこれらの不確実性を十分に認識する必要がある。

一つ確実に言えることがある。軌道上に存在する約3万6,000個の追跡可能なデブリと、年間数千機ペースで増え続ける衛星という物理的現実は変わらない。誰かがこの問題を解決しなければならず、その最前線に立つ企業として、アストロスケールのポジションは唯一無二である。問題は「この市場が立ち上がるかどうか」ではなく「いつ、どの規模で立ち上がるか」であり、その時間軸と投資家の忍耐力の勝負が、今後の株価を左右することになると考えられる。



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