FIG株式会社は、2024年12月期に匠CB全額減損(16.93億円)で最終赤字に転落したものの、2025年12月期はQ3累計で営業利益+77.9%と明確なV字回復軌道にある。 サブスク売上高46.5億円・約21万件の契約基盤を持つIoT×SaaS事業が安定収益を生む一方、ラピダス向けAMR導入や自治体キャッシュレス展開といった新たな成長ドライバーが育ちつつある。ただし中期経営計画のKPIは全項目未達で1年延長を余儀なくされ、プライム市場の流通株式時価総額基準も未充足が続く。PER 12.9倍・PSR 0.77倍とバリュエーション面では割安だが、営業利益率3%台の低収益体質と上場維持リスクが株価の重荷となっている。
※本レポートは公開情報に基づく分析・考察であり、特定銘柄の投資推奨・助言を目的とするものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
目次
5年間の業績推移が映す構造的課題
FIGの連結業績はFY2022をピークに減速し、FY2024は売上高・利益ともに大きく後退した。
| 決算期 | 売上高(百万円) | 営業利益 | 経常利益 | 最終利益 |
|---|---|---|---|---|
| FY2020 | 10,333(+8.7%) | △284 | △256 | 169 |
| FY2021 | 12,264(+18.7%) | 566 | 573 | 441 |
| FY2022 | 12,914(+5.3%) | 932 | 964 | 685 |
| FY2023 | 13,534(+4.8%) | 723 | 715 | 210 |
| FY2024 | 12,016(△11.2%) | 363 | 393 | △1,412 |
| FY2025予想 | 13,318(+10.8%) | 834 | 826 | 783 |
FY2024の売上高15.2億円減の主因はマシーンセグメント(REALIZE)の大幅減収にある。半導体在庫問題の長期化と自動車メーカーの減産・投資先送りが直撃し、同セグメント売上高は約35.5億円(前年比△28%)まで落ち込んだ。一方、IoTセグメントは売上高84.1億円(+0.5%)とほぼ横ばいを維持し、モバイルクリエイトは過去最高の売上総利益を達成した。
FY2024の最終赤字△14.12億円は一過性の特別損失が主因である。 営業利益3.63億円、経常利益3.93億円と本業は黒字を確保したが、ロボットベンチャー・株式会社匠が発行したCB(転換社債型新株予約権付社債)全額16.93億円の投資有価証券評価損を特別損失に計上したことで最終損益が大幅に悪化した。匠社のロボット先行開発段階における財務基盤を勘案し、保守的に全額を減損処理したものであり、会社側は「ビジネス展開上のCB保有価値は変わらない」として提携を継続する方針を示している。
FY2025は明確な回復基調にある。Q3累計(1〜9月)で売上高99.4億円(+12.8%)、営業利益5.65億円(+77.9%)、最終利益6.30億円(+113.4%)を計上。2026年2月5日に通期業績予想を修正し、売上高133.18億円、営業利益8.34億円、最終利益7.83億円(当初レンジ上限7.50億円を上回る)を見込む。純投資目的の投資株式売却による特別利益も最終利益の上振れに寄与している。
中期経営計画は全KPI未達で1年延長
FY2022〜FY2024の3ヵ年中期経営計画は、掲げた4つのKPIすべてが未達に終わった。
| KPI | 目標値 | FY2022実績 | FY2023実績 | FY2024実績 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| サブスク売上高 | 50億円以上 | 42.2億円 | 45.7億円 | 46.5億円 | ❌ |
| 営業利益 | 11億円以上 | 9.3億円 | 7.2億円 | 3.6億円 | ❌ |
| ROE | 8%以上 | 約7.3% | 2.2% | △16.1% | ❌ |
| EPS | 24円以上 | 23.4円 | 7.0円 | △46.7円 | ❌ |
サブスク売上高は着実に積み上がっているものの、目標の50億円には3.5億円届かなかった。営業利益は目標の3分の1以下にとどまり、ロボット事業への先行投資とマシーンセグメントの低迷が重なった結果である。2024年11月に計画期間をFY2025まで1年延長すると発表したが、FY2025の営業利益予想8.34億円では11億円目標の達成は困難な状況にある。サブスク売上高の目標も事業ポートフォリオ見直しに伴い50億円から48億円に下方修正された。
中長期の成長イメージとしては売上高200億円がターゲットとして決算説明資料に明記されているが、具体的な新中期経営計画(FY2026以降)は2026年2月時点で未公表である。2026年2月13日予定の本決算発表で、新中計の方向性が示される可能性がある。
サブスク事業は堅調だが成長は鈍化、解約率は非開示
FIGの成長戦略の核であるサブスクリプション事業は、12年間で3.8億円→46.5億円と約12倍に拡大した。連結サブスク売上高の推移は以下の通りである。
| 決算期 | 連結サブスク(百万円) | MC単体サブスク | 前年比 |
|---|---|---|---|
| FY2019 | 2,852 | 2,356 | — |
| FY2020 | 3,803 | 2,455 | +33.3% |
| FY2021 | 3,971 | 2,588 | +4.4% |
| FY2022 | 4,216 | 2,807 | +6.2% |
| FY2023 | 4,565 | 3,099 | +8.3% |
| FY2024 | 4,649 | 3,281 | +1.9% |
| FY2025予想 | 4,680 | 3,362 | +0.7% |
FY2024以降、成長率は明らかに鈍化している。モバイルクリエイト単体のモビリティ関連サブスクは前年比+5.7%と堅調だが、ケイティーエスのホテルマルチメディア分野で解約が発生し、全体の伸びを押し下げている。
解約率(チャーンレート)について、FIGはIR資料・決算説明会資料・有価証券報告書のいずれにおいても具体的数値を開示していない。 これはサブスクリプションモデルを標榜する企業としては情報開示面の課題と言える。ただし、IP無線・タクシー配車・バスロケーションといったモビリティ分野は業務インフラとしてスイッチングコストが高く、解約率は一般的なBtoB SaaSの水準よりかなり低いと推察される。
顧客基盤の現状(2024年12月時点)は以下の通りである。
| カテゴリ | 契約数 | 市場シェア | 対象市場規模 |
|---|---|---|---|
| タクシー | 約27,700台 | 14% | 全国約20万台 |
| バス | 約17,400台 | 31% | 全国約5.5万台 |
| 物流他(IP無線) | 約106,200台 | 車載No.1 | トラック約770万台 |
| ホテル | 約62,000室 | 3.5% | 約177万室 |
通信契約回線数は約15万回線、月額サービス契約は約21万件。特にバスロケーションのシェア31%とIP無線車載タイプの国内首位のポジションは競争優位性が高い。物流分野のIP無線浸透率はわずか**1.4%**であり、自営無線サービス終了に伴う入替特需の取り込みによる拡大余地は大きい。
各事業セグメントの成長ポテンシャル
IoT×SaaS事業:安定成長の屋台骨
モバイルクリエイトを中心とするIoTセグメントはFY2024で売上高84.1億円(連結売上の約70%)を占め、グループの収益基盤を支える。IP無線「iMESH」は国内初のIP無線事業化のパイオニアとして先行者優位を持ち、タクシー配車「新視令」、バスロケ「モバステーション」と合わせたモビリティプラットフォームを構成している。
注目すべき新サービスとして、2025年9月にLINEベースの全国版バスロケーションサービス「LLocana(ロカナ)」を沖縄4社から提供開始した。アプリ不要でLINE友だち追加のみで利用可能、バス事業者のランニング費用もゼロという設計が特徴で、全国展開を予定している。
ペイメント事業:自治体DXが新たな成長軸
マルチ決済端末PT-750の自治体向け展開が加速している。FY2025 Q3時点で4県(大分・福岡・鹿児島・島根)、20市町村等への導入実績があり、公園・警察署・スポーツ施設・運転免許センター等への設置が進む。公共交通向けクレジットカードタッチ決済も2024年から提供を開始しており、政府のキャッシュレス推進政策が追い風となる。
ロボット事業:ラピダス向け導入が最大のカタリスト
2024年8月に発表されたラピダス向けAMR「WILL-FA」導入決定はFIGにとって最大の成長カタリストである。ラピダスが北海道千歳市に建設中の最先端2nm半導体工場「IIM-1」のクリーンルーム内搬送を自動化するもので、エア・ウォーターおよび第一実業との共同提案で採用された。2025年のパイロットライン、2027年の量産開始に合わせて追加受注の可能性がある。
匠との協業では、トヨタグループの自動車工場のほか、LIXIL上野緑工場(浴槽・床材の入出庫搬送)、ファインテック山口新工場(部品・ユニット搬送)、JR東日本・KDDI(高輪ゲートウェイシティでの実証実験)など導入事例が着実に拡大中である。「純国産GTP型AGVで国内No.1メーカー」を目標に掲げる。
ただし、CB16.93億円の全額減損が示すように、匠社の財務基盤は脆弱であり、ロボット事業の本格的な収益貢献にはなお時間を要する。
マシーン事業:半導体サイクルとの連動で回復局面
REALIZE(旧・石井工作研究所)が担うマシーンセグメントは半導体装置市場の景気循環に強く連動する。FY2024は大幅減収に苦しんだが、FY2025 Q3のREALIZE売上高は33.4億円(前年同期比**+18.4%**)と回復が鮮明である。先端半導体プロセスへの対応強化、海外市場への取り組み、ロボットとの装置連携による新領域の開拓を進めている。
財務体質は劇的に改善、FCF6,078百万円の背景
FY2024はバランスシートの大幅なスリム化が進み、財務健全性が劇的に改善した年となった。
| 指標 | FY2023 | FY2024 | FY2025 Q3 |
|---|---|---|---|
| 総資産 | 228.4億円 | 158.9億円 | 157.6億円 |
| 自己資本 | 94.5億円 | 80.4億円 | 86.4億円 |
| 自己資本比率 | 41.4% | 50.6% | 54.0% |
| 有利子負債(CB含む) | 約102.9億円 | 47.6億円 | 40.4億円 |
総資産が228億円から159億円へ69.4億円(△30.4%)も急減した要因は、①スマートシティ事業資産の株式会社MIRAIへの譲渡(土地・建物等の減少)、②リース投資資産の大幅回収(△28億円)、③売上債権の回収進捗(△19.6億円)、④匠CB評価損計上(△16.9億円)の4つが重なった結果である。
FCFは△14.2億円から+60.8億円へ74.9億円の改善を達成した。営業CFは△5.8億円→+31.6億円へ好転(匠CB評価損の非資金項目計上と売上債権回収が貢献)。投資CFはスマートシティ事業資産の売却により+29.2億円のプラスとなった。このFCFを活用して有利子負債を約55億円返済し、有利子負債倍率は大幅に改善。キャッシュ・フロー対有利子負債比率は1.4年、インタレスト・カバレッジ・レシオは83.1倍と健全な水準に達している。
バリュエーションは割安だがディスカウント要因も明確
FIGの投資指標を同業他社と比較すると、複数の指標で割安感が際立つ。
| 指標 | FIG(4392) | オプティム(3694) | セック(3741) |
|---|---|---|---|
| PER(予想) | 12.9倍 | N/A | 26.4倍 |
| PBR(実績) | 1.17倍 | 3.4〜3.8倍 | 3.7倍 |
| PSR | 0.77倍 | 2.8倍 | 6.7倍 |
| EV/EBITDA | 約8.5倍 | — | — |
| 配当利回り | 3.06% | 0% | 1.55% |
| 営業利益率 | 約3% | 約18% | 約15% |
PSR 0.77倍はIoT/SaaS関連としては極めて低い。SaaS企業としてPSR 1〜2倍が適正と仮定すれば、理論的な時価総額レンジは133〜266億円となり、現在の約105億円には上値余地がある。簡易DCF法でもFCF12億円/WACC8%/永続成長率1.5%で理論値は約185億円と算出される。
一方、ディスカウントの主因は明確である。営業利益率3%台はIoT/SaaS企業としては著しく低く(オプティム18%、セック15%)、マシーンセグメントを含むコングロマリット構造が利益率を押し下げている。過去5年間で赤字転落を2回経験した業績のボラティリティの高さ、アナリストカバレッジの乏しさ(セルサイド担当はほぼ不在)、そしてプライム市場基準未達リスクがバリュエーションの天井を形成している。
株価は過去5年間おおむね240〜450円(分割調整後)のレンジで推移してきた。2026年1月20日には「フィジカルAI」テーマでの物色により年初来高値379円を記録し、出来高も336万株と急増した。ファンダメンタルズよりもテーマ性に株価が反応しやすい特性を持つ。
プライム市場維持が最大のリスク、必要株価は488円
FIGが直面する最大のリスクはプライム市場の上場維持基準への不適合である。
流通株式時価総額の基準は100億円以上だが、FIGの推定流通株式時価総額は約67億円で大幅に下回る。大株主であるフューチャー株式会社(社長の資産管理会社)が27.2%を保有しており、流通株式比率は推定65〜70%。基準達成には株価約488円(現在327円から**+49%**の上昇)が必要で、容易ではない。
経過措置は2025年3月に終了し、2025年12月31日が最初の基準日となる。未達が確認された場合は原則1年間の改善期間に入り、それでも達成できなければ監理銘柄→整理銘柄→上場廃止という経路をたどる。スタンダード市場への移行も現実的な選択肢として存在する。
その他の主要リスクとしては以下が挙げられる。
- 匠社との協業不調リスク:CB16.93億円は全額減損済みで追加損失リスクは低減したが、匠の事業が成功しなければロボット戦略の柱を失う
- マシーンセグメントのシクリカリティ:半導体市場の景気循環に業績が大きく左右される構造は変わらない
- 希薄化リスク:新株予約権やワラントの発行歴があり、マッコリ証券が関与するワラント行使による潜在的希薄化が懸念される
- 経営の集中リスク:社長の資産管理会社が27%を保有し、自社株買いの実績がない点への投資家からの批判がある
結論:回復は本物だが、構造転換の成否が分水嶺
FIGはFY2024の特別損失を経て、FY2025に売上高133億円・営業利益8.3億円へのV字回復を果たしつつある。サブスク売上高47億円・21万件の契約基盤は安定収益の土台であり、ラピダス向けAMR、自治体向けペイメント、全国版バスロケ「LLocana」といった新たな成長の種も芽吹き始めている。財務面では有利子負債を半減させ、自己資本比率54%まで改善した点は評価に値する。
しかし、中計KPIの全項目未達が示す通り、FIGの成長力は計画に追いついていない。 営業利益率3%という低収益体質、マシーンセグメントの景気循環依存、ホテル向けサブスクの解約増、解約率の非開示といった構造的課題は依然として残る。中長期目標の「売上高200億円」達成には、ロボット事業の収益化とペイメント事業のスケール拡大が不可欠であり、その時間軸はなお不透明である。
投資指標面ではPER 12.9倍・PSR 0.77倍と割安感が顕著だが、これは低利益率とプライム基準リスクに対する合理的なディスカウントでもある。2026年2月13日の本決算発表でFY2025の確定業績とFY2026予想、そして新中期経営計画の方向性が示されるかが、次の重要なカタリストとなる。プライム基準達成に向けた具体的施策(自社株買い、IR強化、大株主構成の変更等)が打ち出されるかも注目点である。FIGの今後の成長性は、安定したサブスク基盤という「守り」の強さと、ロボット・ペイメントという「攻め」の事業がどこまで利益貢献できるかの二軸で評価すべきであり、その転換点は今後1〜2年のうちに訪れるだろう。



















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