生活保護費減額に「違法」判決 – 最高裁が示した行政の説明責任と社会保障の危機



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生活保護費減額に「違法」判決 – 最高裁が示した行政の説明責任と社会保障の危機

2025年6月27日、最高裁判所第三小法廷が下した判決は、日本の社会保障制度の根幹を揺るがす重要な意味を持つものでした。2013年から2015年にかけて実施された生活保護費の大幅な引き下げについて、最高裁は初めて「違法」とする統一判断を示したのです。

この判決は、単に生活保護受給者の権利を守るだけでなく、行政の政策決定プロセスにおける透明性と説明責任の重要性を改めて問うものとなりました。本記事では、判決に至るまでの経緯、明らかになった行政の「秘密工作」、受給者の生活実態、そして日本の社会保障制度全体への影響について、詳細に検証していきます。

2012年「生活保護バッシング」から始まった引き下げへの道

生活保護費引き下げの発端は、2012年に起きた一連の報道でした。ある人気お笑いタレントの母親が生活保護を受給していることが報じられ、これが大きな社会問題として取り上げられました。しかし、この事案は法律上の「不正受給」には該当しないケースでした。扶養義務者である息子に高収入があっても、実際に扶養していなければ違法ではないのです。

にもかかわらず、一部の政治家がこの事案を利用して生活保護バッシングを扇動しました。「不正受給」「家族が扶養せよ」といった激しい批判が巻き起こり、世間には「生活保護制度自体が悪である」「受給者はいかがわしい人間である」といった偏見が急速に広まりました。

政治的な動きと10%削減提言

このバッシングを追い風に、政権復帰を目指していた自民党は「生活保護に関するプロジェクトチーム」を立ち上げました。そして、給付水準の10%引き下げを提言したのです。この政治的な動きが、後の大幅な引き下げの布石となりました。

実際、2013年4月から3年間かけて、国は生活扶助基準(生活保護基準のうち生活費部分)を平均6.5%、最大10%引き下げました。これにより、年間670億円が削減されることになったのです。

社会保障費削減の「突破口」としての生活保護

なぜ生活保護が標的にされたのでしょうか。その背景には、生活保護制度が持つ特殊な位置づけがありました。

生活保護制度は「ナショナルミニマム」(国家が国民に保障する最低限度の生活水準)とされ、他の様々な社会保障基準の土台となっています。具体的には以下のような制度が生活保護基準と連動しています:

  • 最低賃金の設定基準
  • 住民税の非課税基準
  • 地方税の減免基準
  • 保育料の減免基準
  • 国民健康保険料の減免基準
  • 介護保険料の減免基準
  • 就学援助の対象基準
  • 高額療養費の自己負担限度額

つまり、生活保護費を下げると、これらすべての制度の基準が自動的に引き下げられ、社会保障全体を削減できるのです。生活保護は、社会保障費削減の「突破口」として利用された側面があったと指摘されています。

厚生労働省による「デフレ調整」と「ゆがみ調整」

厚生労働省は、2013年の生活扶助基準改定において、主に「ゆがみ調整」と「デフレ調整」という二つの調整を実施したと説明しました。

「ゆがみ調整」とは

生活保護世帯の居住地、世帯人数、年齢によって生じる基準額の「高すぎる」「低すぎる」といった不均衡を是正することを目的としたものです。一般世帯との消費実態の比較により、世帯類型ごとの基準額を調整するというものでした。

「デフレ調整」とは

物価の変動に合わせて生活扶助費の金額を調整する考え方です。厚生労働省は、デフレによる物価下落を理由に、生活保護費も引き下げるべきだと主張しました。

しかし、これらの調整には重大な問題がありました。

裁判で明らかになった驚愕の「秘密工作」

生活保護費引き下げに対し、全国の受給者らが「いのちのとりで裁判」と呼ばれる集団訴訟を起こしました。この裁判の過程で、厚生労働省による信じがたい「秘密工作」が明らかになったのです。

専門家にも国民にも隠された「2分の1処理」

最も衝撃的だったのは、「2分の1処理」の存在でした。厚生労働省は、生活保護基準を評価・審議する専門の部会である「社会保障審議会生活保護基準部会」にさえ知らせずに、世帯類型ごとの増額率や減額率を「2分の1にする処理」を実行していたのです。

この事実は、マスコミにも一切公表されませんでした。北海道新聞による情報公開請求と粘り強い調査によって、ようやく明らかになったのです。

名古屋高等裁判所は、この隠蔽について「極めて不誠実」「判断過程の極めて重要な部分を秘していた」と厳しく批判しました。この「2分の1処理」により、本来増額されるべき世帯の増額分が減少させられ、生活保護法第2条が定める「無差別平等」の原則に反する可能性も指摘されています。

専門的知見を無視した政策決定

生活保護の基準額の改定は、制度ができてから一貫して外部の専門家の意見を聞いて行われてきました。しかし、今回の引き下げは、専門家の審議を全く経ずに大幅な引き下げを行うという、前例のない方法で実施されました。

「デフレ調整」についても、専門家会議による検討や検証を全く経ていませんでした。名古屋高裁は、「ブラックボックスにしておいて、専門技術的知見があるから信用するよう主張することは許されない」と、国の訴訟態度を厳しく批判しました。

不適切な統計データの使用

福岡高等裁判所は、厚生労働省が被保護世帯の消費構造を適切に踏まえなかった点を問題視しました。国が使用した「家計調査」は国民全体の消費実態を調査するものであり、生活保護世帯の消費実態とは異なります。厚生労働省自身が「社会保障生計調査」という生活保護世帯専用の調査を実施しているにもかかわらず、これを使用しなかったことが批判されました。

「単に生かされているだけ」- 受給者が語る過酷な生活実態

生活保護基準の引き下げは、物価高騰と重なり、受給者の生活を極限まで追い詰めました。裁判で明らかになった生活実態は、もはや「節約」の域を超えた貧困生活でした。

食生活の崩壊

多くの受給者が、食費を極限まで切り詰めざるを得ない状況に追い込まれました。スーパーのタイムセールや農家の無人販売に頼り、栄養バランスを考える余裕もない食生活を強いられています。持病を持つ人にとっては、物価高騰による食材の選択肢の減少が、文字通り命に関わる問題となっています。

大阪に住むある受給者は、「スーパーで焼き魚を買えない」と語り、この状況を「単に生かされているだけ」と表現しました。

人間関係の断絶

引き下げの影響は、物質的な面だけにとどまりません。交通費を捻出できず、親族との面会が困難になる。友人からの誘いに応えられない。亡くなった知人の葬儀に香典を出せず参列できない。孫からの数百円のおねだりにも応えられない。

こうした状況は、受給者を社会から孤立させ、人間としての尊厳を奪うものでした。「健康で文化的な最低限度の生活」とはかけ離れた、大切な人間関係から自ら退くしかない状態は、まさに「人道危機」と呼ぶべき状況でした。

衛生・健康面での犠牲

水道光熱費を節約するため、入浴回数を極端に減らし、身体を拭くことで最低限の清潔を保つという生活。冷暖房の使用を控えることによる熱中症や低体温症のリスク。これらは、もはや「生活」と呼べるものではありませんでした。

「障害者は霞を食べて生きる仙人ではありません」という原告の訴えは、この制度が保障すべき「人間らしい生活」とは何かを、改めて問いかけるものでした。

全国で相次いだ「違法」判決

「いのちのとりで裁判」は全国29都道府県で提起され、約900人の原告が国の決定の違法性を訴えました。当初は敗訴が続いたものの、その後、違法判決が相次ぎました。

名古屋高裁判決 – 「極めて不誠実」との批判

名古屋高等裁判所は、国が「2分の1処理」の事実を秘匿したことを「極めて不誠実」と批判し、「判断過程の極めて重要な部分を秘していた」と指摘しました。また、「デフレ調整」についても専門的知見に基づいた十分な説明がないことを批判し、引き下げを違法と判断しました。

福岡高裁判決 – 消費構造の無視を指摘

福岡高等裁判所は、厚生労働省が被保護世帯の消費構造を適切に踏まえなかった点を指摘しました。「社会保障生計調査」を用いることが可能であったにもかかわらず、あえて使用しなかったことを問題視し、減額が違法であると判示しました。

大阪高裁判決 – 「コピペ判決」との批判

一方、大阪高等裁判所は国側の主張をほぼそのまま受け入れ、「確立した専門的知見との矛盾がない限り違法とは言えない」という高いハードルを課しました。この判決は、誤字まで含めて国の主張をコピーしたような内容であったため、「コピペ判決」と批判されました。また、「みんな苦しんだのだから生活保護受給者も我慢しろ」という論理は、憲法が保障する生存権の理念に反するものでした。

最高裁判決の歴史的意義

2025年6月27日、最高裁判所第三小法廷は、これらの下級審の判断が分かれていた状況において、生活保護費の減額を「違法」とする統一判断を下しました。

判決の3つの重要ポイント

1. 物価変動率のみを指標とすることの限界
最高裁は、基準生活費の改定率を物価変動率のみを直接の指標として定めることについて、「それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標である」と明確に指摘しました。

2. 専門的知見との整合性の欠如
「物価と最低限度の消費水準との関係や、従来の水準均衡方式による改定との連続性、整合性の観点を含め、専門的知見に基づいた十分な説明がされる必要がある」とした上で、国側からの十分な説明がされていないと判断しました。

3. 判断過程の透明性の要求
厚生労働大臣の判断に専門的知見との整合性を欠くところがあり、手続きに誤りがあったことを認定しました。これは、行政の判断過程における透明性と説明責任を強く求めるものでした。

「司法は生きていた」- 原告らの反応

判決後、原告や支援者からは「勝った」「嬉しい」「司法は生きていた」といった喜びと安堵の声が上がりました。この判決は、減額された保護費が違法であったと認め、対象となった原告に対して減額分の支給が認められることを意味します(ただし、国への賠償請求は退けられました)。

原告弁護団は、この勝利が「国民全体のボトムアップ」につながり、「生活保護法から生活保障法への根本的な転換」を求めるきっかけとなることを期待しています。

生活保護制度をめぐる構造的な問題

今回の判決は、生活保護費引き下げの違法性を認めましたが、生活保護制度には他にも多くの構造的な問題が存在しています。

「水際作戦」による申請権の侵害

「水際作戦」と呼ばれる、福祉事務所の窓口での違法・不当な申請妨害が各地で報告されています。申請用紙の交付拒否、不適切な助言による申請断念の誘導など、憲法が保障する生存権を侵害する行為が横行しています。

過去には北九州市や札幌市などで餓死・孤立死事件が頻発し、これらが違法な「水際作戦」の結果であることが明らかになりました。司法の場では、申請権の侵害を理由とした国家賠償請求訴訟で原告の主張を認容する判決が増えてきています。

扶養照会という高いハードル

生活保護申請時には、原則として扶養義務者への照会が行われます。しかし、家族間にDVや虐待などのトラブルを抱えるケースも多く、この扶養照会が申請を躊躇させる大きな要因となっています。

扶養義務者の扶養は「保護」の前提条件ではないにもかかわらず、過度な調査が申請の抑制や家族関係の悪化につながっているとの指摘があります。

行政の組織的な不正行為

桐生市で発覚した事件では、行政内部で最低生活費を下回る分割支給計画や架空の受領簿記載、認め印の無断押印といった組織的な不正行為が行われていたことが明らかになりました。これは、保護すべき立場にある行政が、逆に申請権を侵害していた衝撃的な事例でした。

外国人の生活保護受給権問題

最高裁は、生活保護法が適用対象を「国民」と定めていることから、永住外国人を含む外国人は同法に基づく受給権を持たないという判断を示しています。ただし、行政措置として事実上の保護が行われることはありますが、これは法的権利ではなく、行政の裁量に委ねられているという不安定な状況にあります。

スティグマ(恥の烙印)の問題

「生活保護」という名称自体が、受給者に「恥」の烙印を押すものとなっています。これに加えて、僅かな資産しか認められない厳格な資産要件、親族への扶養照会など、制度利用を躊躇させる要因が多く存在しています。

制度改革の方向性と課題

生活保護制度の問題を解決するため、様々な制度改革や支援強化が検討・実施されています。

就労・自立支援の強化

生活困窮者自立支援制度と連携し、以下のような取り組みが進められています:

  • ハローワークと自治体が一体となったワンストップ型の就労支援体制の全国的な整備
  • 就労活動に必要な経費を賄う「就労活動促進費」の支給
  • 就労収入の一定額の積立てと、保護廃止時の還付制度(就労収入積立制度)の創設
  • 勤労控除の見直しによる就労インセンティブの強化

ただし、稼働能力の活用要件については、①稼働能力があるか、②その能力を活用する意思があるか、③実際に就労の場を得られるか、の3要素で判断する必要があり、ホームレス状態のままでは満足な就職活動ができないことも考慮すべきとされています。

医療扶助の適正化

医療扶助については以下の取り組みが進められています:

  • 後発医薬品(ジェネリック)の使用原則化
  • 電子レセプトシステムの活用による頻回受診者・多剤・重複投薬者の把握
  • オンライン資格確認の推進
  • 不適切な医療機関への指導・監査の強化
  • 指定医療機関の要件・取消事由の明確化、指定有効期間の導入

子どもの貧困対策

貧困の連鎖を断ち切るための支援として:

  • 生活保護世帯の子どもに対する学習支援事業の法定化
  • 高校卒業後の就職・進学準備給付金の支給
  • 地域における子ども食堂の運営支援
  • 地域若者サポートステーションの充実強化

居住支援の強化

  • 住宅扶助の代理納付の推進
  • 民間住宅ストックの活用促進
  • 地域居住支援事業の法定化
  • 居住支援法人による安否確認や見守り活動

不正受給対策の強化

2013年の生活保護法改正により、以下の対策が強化されました:

  • 福祉事務所の調査権限の拡大(就労活動、健康状態なども調査対象に)
  • 官公署への回答義務の創設
  • 過去の受給者・扶養義務者への調査対象拡大
  • 不正受給に係る返還金と保護費の相殺検討

ただし、芸能人の家族の受給をきっかけとした「不正受給」キャンペーンの多くは、法律上の違法性がないケースであったことも指摘されています。

社会保障制度全体の課題と展望

生活保護制度は「最後のセーフティネット」として位置づけられていますが、その前段階の支援も重要です。

多層的なセーフティネットの構築

「一次的セーフティネット」の多層構造化が課題とされています:

  • 雇用保険の充実
  • 医療保険制度の強化
  • 年金制度の改善
  • 労災保険の適用拡大
  • 介護保険の充実
  • 生活困窮者自立支援制度の拡充

「男性稼ぎ主型」システムからの脱却

日本社会の「男性稼ぎ主型」生活保障システムからの脱却も重要な課題です。女性の就労支援、ひとり親家庭への支援強化、ジェンダー平等の推進などが求められています。

司法へのアクセス保障

経済的に困窮している人でも裁判を受ける権利が保障されるよう、以下の支援制度が存在します:

  • 日本司法支援センター(法テラス)による法律相談
  • 訴訟費用や弁護士費用の免除・立て替え
  • 生活保護受給者は原則無料で法律相談が可能
  • 収入が見込まれない場合の返済免除制度

「引き下げスパイラル」を止めるために

生活保護基準の引き下げは、「引き下げスパイラル」を引き起こす危険性があります。生活保護基準が最低賃金や年金よりも高いという指摘に対しては、本来はその逆、つまり最低賃金や年金が低すぎることが問題であるとの主張があります。

生活保護基準を引き下げることで、最低賃金も上がりにくくなり、結果として「国民全員が貧乏になる」可能性が指摘されています。これは、日本の社会保障制度全体の根本的な問題であり、生活保護受給者だけの問題ではありません。

判決に対する批判的な意見 – X(旧Twitter)での反応

2025年6月27日の最高裁判決に対して、X(旧Twitter)上では賛否両論が激しく交わされました。特に批判的な意見が多く投稿され、日本社会における生活保護を巡る深い対立を浮き彫りにしました。

「最低限度の生活」の解釈を巡る批判

最も多く見られた批判の一つが、「最低限度の生活」の範囲に関するものでした。

  • 「孫へのお年玉」への疑問:「最低限度の生活と言いながら、孫へのお年玉が足りないというのはおかしい」という意見が投稿されました。お年玉は文化的な慣習ではあるものの、生存に必要不可欠ではないという指摘です。
  • 娯楽・嗜好品への批判:たばこ代、ゲーム機、大型テレビ、スマートフォン、パチンコなどへの支出を「贅沢」と捉える声が多数ありました。
  • 訴訟能力への疑問:「そもそも孫にお年玉もあげられない老人が裁判すると言うのは、お金と知恵はどこから来てるの?」という、生活困窮と訴訟能力の矛盾を指摘する投稿も見られました。

外国人受給者に関する批判

判決を機に、外国人の生活保護受給に関する批判も再燃しました。

  • 「日本人ファースト」の主張:「外国人の受給に納得できない」「日本国民を優先すべき」という意見が多数投稿されました。
  • 2014年判決との混同:2014年の最高裁判決(外国人は生活保護法上の受給権を持たないとした判決)と混同し、「外国人への生活保護は違法」という誤った情報も拡散されました。
  • 他国との比較:他国と比較して日本の制度が「寛大すぎる」という批判も見られました。

財政負担と納税者の不満

最も顕著な批判の一つが、納税者負担の増大への懸念でした。

  • 財源への疑問:「働く人々も苦しんでいるのに、どこから財源を確保するのか」という切実な声が上がりました。
  • 670億円の負担:削減されていた年間670億円が復活することへの財政的不安が表明されました。
  • 納税者の疲弊:「納税者はすでに疲弊している」という、税負担の限界を訴える意見も多く見られました。

「働いたら負け」という批判

勤労意欲への影響を懸念する批判が広範に見られました。

  • 逆インセンティブの問題:「保護を受けていた方が働くより得になる設計はおかしい」という指摘が多数ありました。
  • ワーキングプアとの比較:「真面目に働いている人の方が苦しい生活をしている」という不公平感が強く表明されました。
  • 医療費無料への不満:働く貧困層が医療費を負担する一方、生活保護受給者は無料という点への批判も見られました。

不正受給への懸念

制度の悪用に関する批判も多数確認されました。

  • 審査の厳格化要求:「本当に困っている人を守るのは当然だが、不正受給が多すぎる」という意見が投稿されました。
  • 監視システムの提案:より厳格な審査や身分証明システムによる管理を求める声もありました。
  • 現物給付への転換:現金給付から現物給付やバウチャー制への転換を提案する意見も見られました。

批判と擁護の間で – 社会的対立の深まり

これらの批判的意見は、単なる制度への不満を超えて、日本社会の根本的な価値観の衝突を反映していました。勤労倫理、公平性、財政的持続可能性、国民優先主義など、様々な観点から生活保護制度への疑問が投げかけられています。

一方で、これらの批判の多くが、実際の判決内容よりも生活保護制度全般への既存の不満や誤解に基づいていたことも事実です。例えば、生活保護受給者の訴訟費用は法テラスを通じて支援されており、「お金がないのに裁判できるのはおかしい」という批判は、司法アクセス権の保障という観点から見れば的外れと言えます。

また、「働いたら負け」という批判についても、実際には就労インセンティブを強化する制度改革が進められており、勤労控除の見直しや就労収入積立制度の創設など、働くことが報われる仕組みづくりが模索されています。

結論 – 人間の尊厳を問う「鏡」として

今回の最高裁判決は、生活保護制度が単なる救貧策ではなく、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を具現化する制度であることを改めて確認しました。

生活保護制度は、その国が人間の尊厳をどれだけ重視しているかを示す「鏡」であると言われています。困難な状況に直面した人々を一時的に救済するだけでなく、すべての国民が人間らしく生きる権利を保障する制度として機能すべきです。

しかし、X上で表明された批判的意見が示すように、この制度を巡っては国民の間に深い分断が存在しています。「孫へのお年玉」や「たばこ代」のような支出が「最低限度の生活」に含まれるのか、外国人への支給は適切なのか、働く貧困層との公平性はどう保たれるべきか – これらの問いに対する答えは簡単ではありません。

生活保護制度は、その国が人間の尊厳をどれだけ重視しているかを示す「鏡」であると言われています。困難な状況に直面した人々を一時的に救済するだけでなく、すべての国民が人間らしく生きる権利を保障する制度として機能すべきです。

同時に、納税者の理解と支持なくして、制度の持続可能性は保てません。「働いたら負け」という感覚を生まないよう、就労インセンティブの強化や不正受給対策の徹底も不可欠です。批判的な声にも真摯に耳を傾け、より公平で持続可能な制度設計を模索することが求められています。

「生活保護が下がれば、すべての国民の生活にかかわる」という原告の訴えは、この制度が国民全体の権利であることを端的に示しています。今後は、被保護世帯の実態に即した適正な基準設定と、透明性の高い政策決定プロセスの確立が求められています。

原告弁護団が求める「生活保護法から生活保障法への根本的な転換」は、日本の社会保障制度全体の在り方を問い直すものです。すべての人の生存権が保障され、誰もが安心して暮らせる社会の実現に向けて、建設的な対話と継続的な努力が必要とされています。

最高裁判決は、まだ「戦い」の途中であるとの認識が示されています。減額処分の完全な撤回、被害の完全回復、そして今後の保護基準の改定が被保護世帯の実態に即した適正なものになるよう、市民社会全体で監視し、声を上げ続けることが重要です。

この判決を機に、生活保護制度への批判と擁護の両方の声に耳を傾け、より多くの国民が納得できる社会保障制度の構築に向けて、日本社会が建設的な議論を深めることを期待したいと思います。



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